このレビューはネタバレを含みます▼
タイムリープものは、受けが健気に頑張るパターンが多いのですが、その中でも、かなりのクズっぷりでスタートするのが、こちらの一成です。明るくおおらかに自分を愛してくれる攻めの萬に、つまらない意地から「好き」と言えずに関係を続けている中、ある日突然、不慮の事故で萬が死んでしまいます。呆然としつつ、何故か時間が巻き戻されていることに気付いた一成は、その仕組みを利用して、なんとか萬の運命を変えようと何度もチャレンジします。リセットできる可能性があるにしても、大切な人の死に何度も直面するのは本当にキツい。そして、そのキツい過程が萬との愛を自覚するとともに、一成自身をも育てたのかなと思います。もう後のない最後のチャンスの時、高いところが苦手な一成が、あの高さから踏み切れたのも、なにもかもすっ飛ばして、ただ愛する人に生きていて欲しいという究極の想いに到達できたからなのでしょう。萬が生きてさえいてくれれば良いとの想いでの最後のタイムリープからの8年間、リアルの時よりも実年齢を経た一成が、かつて一度過ごした人生をもう一度、違う形でなぞりながら慎重に避け続ける生活の辛さは、想像するに余りありました。ちなみにカバー裏表紙のイラスト、タイムリープする前の高校生時代の二人の一瞬かと思うのですが、とても美しいのと同時に、描かれていないストーリーの存在と物語の奥行きを感じました。