傘を持て
」のレビュー

傘を持て

たうみまゆ

敢えて傘をさしかけない愛

ネタバレ
2021年1月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 降り頻る雨に濡れながら一人佇む城田を、畑中が見ているシーンから始まります。ヤクザの息子の城田は高校でも浮いた存在で、同じクラスの畑中は超優秀な学級委員です。城田が自分の境遇に馴染めずに、ひっそりと泣いていることを看破した畑中は、同時に自分が恋に落ちたことを知ります。城田はごく普通の人間で、たまたまヤクザの家に生まれたことで苦しむのですが、畑中は優秀な頭脳と狂気的な冷徹さを併せ持つ完璧な悪人でした。畑中の、1mmも隙のない悪人っぷりと、城田への一途な想いとのギャップが読ませます。途中から関わってくる敵対する組の若頭・金本とのサイコパス対決も見ものです。ここぞのシーンは、いつも城田の涙を隠す為の雨が降っており、二人が一緒の傘に入ることはないのですが、ラストは、たわいない会話をする二人が一本の傘の下、立ち去ってゆくシーンで終わります。陽炎編は金本と舎弟の鈴との話、『真面目長屋』は『傘を持て』のプロトタイプ短編です。
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