胸にとげさすことばかり
」のレビュー

胸にとげさすことばかり

雁須磨子

チクチクモヤモヤが癖になる

2021年2月17日
「うそつきあくま」が気に入って、作者さん買いです。こちらは、まず、タイトルに惹かれました。何?何?何が刺さってるのー?って。読後、私の胸も何だかチクチクしています。
上巻は、昭と舟のイライラが伝染したかなって感じでイラッとします。登場人物たちが、勝手にわちゃわちゃしていて、ちょっと置いてけぼり感も味わいました。でも、自分は恨んでいる父(日夏先生)のことを敬愛する舟を疎ましく思う昭と、自分を救ってくれた先生(日夏先生)の息子でありながら、死に目にも帰ってこなかった昭が腹立たしい舟(なんて分かりにくい言い回し・・すみません)が、少しずつ距離を縮めていく過程が、徐々に読み手のイライラをほぐしてくれました。ストーリー全体を通して、日夏先生(父・・故人)が、良くも悪くもスパイスです。(ちなみに椿山くんは緩衝材のようだと思います)終盤における、昭の気持ちの変化は、決して戻らない時間と命のやるせなさを際立たせます。でも、とげが刺さったままでも、前に進もうと思えたこと、良かったな。
この作者さんの作品は2作目ですが、マイナスからスタートラインへの持っていき方がいいなあと。振り切って、ガッツリプラスにはならないから、読後もチクチクするものが残りますが、それが癖になります。さすが、表紙そでに「昭はもっと不幸に見舞われるかと思ったのに、そうならなくて心残り」なんて書いちゃう作者さんです。あと、言い回しが独特なので、ちょっと理解に時間を要することもある作者さんです(当方比)
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