紅椿
」のレビュー

紅椿

三田六十

現代にも通じる昔話

ネタバレ
2021年2月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 孤独を強いられた生まれの若者が、山に産み捨てられた赤児の鬼を愛おしみ育てる、叙情的な昔話。されど人にはなり得ず、小鬼の自由の為に山に戻す苦渋の決断をする。
そして月日は流れ、願い続けた小鬼との再会。可愛いばかりだった小鬼が美しく艶かしく成長し、若者の思いは堰を切ったように恋情に変わる。再会までの孤独を埋め戻すような逢瀬は官能的だが、再びの別離を予感させる。
若者の老い、小鬼の若者への思い、物語の最後まで二人の来し方行く末に胸が熱くなる。
若者に対し初めて理解と友情を示した里の若者と、成長したその息子との関係は物語の中で嬉しくホッとするシーンだ。
そして書き下ろしを以ってこの物語は完結する。
人の心とは。その者らしく生きるとは。現代にもまだ残る様々な偏見差別に対しても、この作品は美しく静かに訴えかけてくる。
いいねしたユーザ11人
レビューをシェアしよう!