私の少年
」のレビュー

私の少年

高野ひと深

せつなかったが、深さ(踏み込み)が足りない

ネタバレ
2021年2月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ ずっと気になっていた作品で、最終巻迄出たのを一気買いしました。期待していた様な感動は得られませんでしたが、後悔はないです。
絵がきれいで上手なので、表情の切なさが、冒頭で匂わされた主人公や少年の背景の暗さを引き立てています。2人が恋人にならなかった終わり方には賛否あるでしょうが、私は恋人や家族になって終わっても良かったと思うし、安直な終わり方でなくて良かったとも思っています。しかし、そもそもの設定がモラルに触れると思う方も多くいらっしゃるでしょう。私は、心の通じ合う出会いには年齢も性別も様々な事があるし、あって良いと思います。
ただこの作品に魅力が足りず、不快感を持たせ易くなってる面があると感じます。
一番は、主人公は不遇な自分と重ねて少年に肩入れしたのだと思うのに、肝心なその点の描き方が足りない事です。折角内面の成長を描いてく作品なのに、主人公が自分の心と家族に対し掘り下げが浅いです。少年のネグレクト問題も、軽くスルーされて終わりました。乗り越えてみれば大した事じゃなくなったという点自体は、そういう事はある物だし良いのですが、経緯の掘り下げが足りないし、何より作品である以上、読者が社会問題として意識できる様な捉え方・表現をするべきだったと思います。他の小説家や漫画家さんならきちんと描ける人もいます。
ネグレクトや機能不全家庭の事が中途半端な用い方をされてて、作者は本当は知らないんだろうなと思いました。心理描写が足りないだけでなく、お金がない筈の少年が交通機関を使いまくってる事や、学生になってからの新幹線で主人公の元に瞬間駆付ける様子も不リアルです。
又後半で感じた事ですが、作者はコメディが合う人で、シリアスは本当は合わないのではないでしょうか?他の方達のコメントにも、最後の頃の余計な描写に違和感を感じたとありますが、心の深い部分を描き切れずに「逃げた」と言える結果になってると思います。
画の表現力の高さにつられもう少し見応えのある物を期待していましたが、家庭の問題は結局、主人公の女性と美しい少年を引き合わせ正当化する為のダシに使われたと感じ、残念です。
実際それが目的だったのかな…。しかし、社会問題をきちんと描いて欲しかったです。
読み終えてみて、期待した様な深い感動や救われた気持ちは得られませんでしたが、真面目な良い作品だったと思います。次回作を応援したいです。
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