春告小町
」のレビュー

春告小町

山口美由紀

最後まで興味を途切らされない

2021年3月21日
時代物の超能力者の話。「ひとゆり峠」に続いて読んだら、趣向の近い作品だった。あちらは田舎が舞台で村人の話、こちらは江戸が舞台(説明に拠れば京都も下敷きに用いられた由)で町人主体、浪人が主人公お春の相手となる恋愛物。彼の方が真の主人公でもある。制作年は本作が先の様だ。
書名にあるように、お春という町娘が自ら春を告げる存在だし、春を享受する日々を迎えるようになる話。お春の存在が、厳しい人生を送ってきた人間を和ます、温かくて希望のある陽射しのようになっている。こちらの話は、お春の恋路の行方が主軸のひとつであるため、長いトンネルのような冬を味わっている人間に救いが訪れる。とても闇の深い辛い記憶や、つきまとう苦しみを乗り越える、ほぼほぼ完全な春。壮絶な体験にさいなまれ続けて生きてきた、その日その日だけをやり過ごす人間が、暗黒に打ち克つ意思を意識させる話。
不気味な超常現象を扱っているし、時代劇がかつてそうだったように、人の死は決して珍しいものではない。
しかし、そうした題材の与える緊迫感と、その反対の、市井の人々の暮らしが醸し出す、大切な、きっと当時ごく普通にあったような日常感と、両方を唐突な組み合わせでなく見せてくれるのだ。
基本、楽しませ、驚かせ、怖がらせ、ホロリとさせ、がしっかりある。そして、不思議現象がある。「訳あり過去」を抱えて心の奥で闘う登場人物が設定されている為、ストーリーに大胆な闘い場面を施してきて、穏やかなだけでは済まされない迫力を見せる慟哭場面とかが注目に値する説得力。
お春が普通過ぎる存在で、そこが、特異な半生を送ってきた人間の、目を背けたい過去の現実を時に忘れさせ、しかし向き合って精算させる、といった力になっている。

幼馴染みの想い人の顔が、もう少し特徴付けされていたら、とは思った。
先生ご自身が名前に頓着されてなかったような裏話があって、ええっ?、なのだが、坂崎正之助とあって、私のようにALFEEの坂崎さんを即座に思い出すのは、少数ではなかったのでは?。場所も、孝之助氏が通ったという高校近くの話でもあるし。そこから来た話かとてっきり思った。
其之四の扉絵にある、だんごを表す変体仮名の中の「こ」の文字、少し変。 子ではなく古の字からなので、カタカナ「ホ」的な点点の位置よりも、十の字形と離れた下に有って欲しかった。
漫画家として注力の絵の方の苦労は伝わったが。
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