美しいこと
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美しいこと

犬井ナオ/木原音瀬

読後は放心状態に‥

ネタバレ
2021年3月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 私にとって木原作品は感情をえぐられて読後は決まって疲弊するので気持ちが元気な時にしか読めません。。今作もレビューを見たら躊躇ってしまってなかなか読めなかったのですが、勇気を出して読んだらエゲツないえぐられ方をするし考えさせられるしで心が痛いです。
主人公は同じ会社に勤める松岡と廣末。この2人、視点を変えると全く違った世界が見えてくるのですが、お話は全て松岡視点で進みます。廣末の見返りのない優しさに触れて自然と心が動いてしまうのだけど、報われない一途な気持ちが痛々しいし読んでて苦しい。廣末を忘れたくても忘れられないのは覚悟を持って同性への気持ちを自覚したからこそかもしれません。だから女性では取って代わることができない。この苦悩が報われる日はあるんだろうかと、途方に暮れてしまいます‥。
一方の廣末さん、彼の苦しさも心がえぐられます。真面目で不器用な廣末が想いを寄せた女性は「存在しない」女性だった。松岡の告白を聞いた時は信じられなくて、だけど葉子との会話を知る松岡に段々現実を受け入れて‥。その時の絶望や喪失感は如何程だったろうとやるせなくなりました。廣末も前に進みたかったはず、だけど悪戯に松岡と再会してしまったがために気持ちがグチャグチャになってしまう。
そんな2人をリアルにまざまざと描く表現力というか作家魂にもう心臓根こそぎ鷲掴みされてしまい、下巻ラストの松岡のセリフ「逆手にとらないで」には放心状態‥。よくこんなセリフを書けたなぁと心震えました。
ショートストーリーで2人の日常が少し垣間見れるんですが、この誠実な2人が一歩づつ確かめながら進む関係が幸あることをもはや祈るしかないんだなぁと。この祈るしかないって感情を噛み締める作品でした。
追記:3部作を読みました。夢中になって読んで、途方もない幸福感に満たされています。これは是非とも原作を手に取って頂きたい。オススメです!
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