ライチ☆光クラブ
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ライチ☆光クラブ

古屋兎丸

聖なるものは愛し、性なるものは抹殺する

ネタバレ
2021年4月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 刊行直後から話題沸騰となり、度々重版され、近年映画化や舞台化もされた古屋兎丸先生の最高傑作の1つとしても名高い本作。先生が高校生の時に観劇した東京グランドギニョル演劇が元であり、漫画の構成も実に舞台的。他のレビュアーさんが仰るように好き嫌いがはっきり別れる作品で、厨二病を極めた少年達の自己陶酔っぷりは読んでいて恥ずかしくなるほどイタイ。特にゼラが頭悪すぎて、物語自体が薄っぺらく感じ、ぜんぶ自業自得じゃん!で終われちゃう始末。BL要素を含めたアングラやエログロ、耽美的な雰囲気を楽しむ分には良いかも? 7人の少年達がそれぞれ非業な死を遂げていく姿は、絵本作家エドワード・ゴーリーのギャシュリークラムのちびっ子たちを彷彿させます。作中ゼラが人間は必ず裏切る生き物なんだと言いますが、人は自分の中にある言葉しか出てきません。例えば、浮気を疑う恋人は自分が浮気しているから相手もそうなんじゃないかと思うわけです。つまり、最初から裏切っていたのはゼラ自身で、汚れた大人になるのを忌み嫌いながらジャイボと性的関係を結び、他の仲間達を監視するという支離滅裂具合。穢れなき美少女に異常な執着と夢想を抱くのもその為でしょう。でも実は物語の中で一番の夢想家はカノンなんですよね。発想や思考が乙女かつ機械と恋に落ち、人間の残虐な一面を認められない。ここに少女特有の夢見がちな浅はかさが顕れています。要するに少年の理想と少女の幻想の対決といったところでしょうか。また、ゼラに忠誠を誓う仲間達もゼラ本人も皆なにかの奴隷です。ゼラは夢想に、雷蔵は美に、ジャイボは愛に、デンタクは科学に、タミヤは正義に、カネダは闇鬱に、ヤコブは道化に、ダフは黒魔術に、ニコは主従関係に酔いしれながら、機械の方が人間化し、造った人間の方が機械化していくという皮肉。そう考えれば、「受け入れれば射 精、断れば射殺」といわんばかりの歪んだ愛に翻弄されるジャイボが最も人間らしかった気がします。だからこそ、対極にいるカノンが妬ましくてたまらなかったのでしょう。聖なるものは愛し、性なるものは抹殺する思春期ならではの青さは純度が高いゆえに残酷で行き場がない。ある意味で、各々の処刑はその青さや理想との決別、卒業式ともいえるのではないでしょうか。
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