少年の境界
」のレビュー

少年の境界

akabeko

社会を動かすにはひとりひとりが変わること

ネタバレ
2021年4月19日
このレビューはネタバレを含みます▼ この話は1巻2巻3巻でテーマが違う。なので必ず3巻まで読まないと作品の価値が解らない。1巻はオメガバース基本編。ヒエラルキー最底辺でマイノリティの男性Ωが差別社会で生きる過酷さを描く。悪役設定の大我に、αとして犯してやるのが一番、そうでなければ救いが無い、それが一生続くと世界のあり様を語らせることでより非情な世界観を醸している。上手い!と呻った。1巻は書き下ろしにて存在価値がぐっと上がる。とともに2巻のプロローグとなっている。
2巻は運命の番についての考察とαの覚悟。運命の番という野生(抗いがたい本能) VS 人としての理性(自分)がドラマチックに展開する。運命を逃し刹那的に生きる大我が倫の番になるまでが読みどころだ。囚われていた運命に打ち勝ち自分を認めていくさまに熱いものが込み上がる。「うなじを噛む」行為までの経緯をα目線重視で描かれているので感情的に重い。だがそれ故に物語に重厚感を与えている。番になる大きな覚悟と決断がこの世界のαの価値を高めている。この巻の書き下ろしも秀逸でエモーションが刺激される。そして3巻のプロローグでもある。

さて、3巻である。 この巻を読んで、作者であるakabeko様の作品に対する真摯さと人としての懐の深さを感じた。
テーマは理性(愛)の結実、、と見せかけた、Ωの社会的地位の獲得への序章、なのだと思う。 現代の日本にオメガバースの世界を設定するなら、性的な差別を見過ごしてはいけないのではないか? 成熟した人間社会では生まれ持った属性で差別するのは狂気だ。昨今のアメリカでの人種差別問題が世界に暴露されたとき、大多数の人は嫌悪感を覚えただろう。なので物語の中とはいえΩだけが徹底的に貶められているのはおかしい。そう考える人(キャラ)が必ずいて、行動し、世界を動かす時は今でなければならない。 作者様、ステキか!この世界を愛しすぎか! 作中、αが自分のΩの幸せに強く責任を持つように、作者様は作品に対する責任を果たしたのだと感じた。 いつの日か少年の境界がなくなりますように。ちゃんと少年時代の友人や思い出が途切れず在り続けますように。 未来は明るい。決して平たんな道ではないが、人は変わるものと信じる。リアルのLGBTQの方々にも必ず明るい未来があると信じている。 これは私たちが現実社会で一人一人が実感を伴って考えていかねばならないというお話である。
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