月影
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月影

SHOOWA

星は表題作の評価です。

ネタバレ
2021年6月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 冒頭『月影』と巻末『逃げ水』は連作+間に単独の短編3作の構成。個人的には連作は続けて読むことをお勧めします。レビューは連作のみ。重たいストーリーなので、読者を選びそうです。
生後間もなく廓の前で拾われた清人の、戦前から戦後の人生を描いた作品。「生きるんや。希望は捨てたらあかん」「わしの為にも生きてくれ…」初恋の医師からの言葉を支えに、時に涙を流しながら過酷な運命を生き抜いた清人の生涯が胸を刺します。廓時代、学校で学べなかった清人が書く、難しい漢字を使った丁寧な手紙。青年期、厳しい戦局の中で大切な人々を失い、生きる希望を無くしかけた時に目に入った火傷を負った少年の姿と医師としての使命感の目覚め。一コマの絵にも清人の生き方を理解するヒントがあり、痛々しさ切なさに胸を締め付けられつつ、短編という制約の中でも深い印象を残す作品となっています。
そして、様々な愛を経験した清人の人生が幸せなものであったと思わせるラストシーン。本当に良い作品でした。
ただ一冊の本としては「何故この作品構成にしたのか」と首を傾げてしまうレベルのまとまりのなさです。どの作品もSHOOWAさんらしい作品ですが、表題作の余韻を生かすには、もう少し毛色の似た作品でまとめた方が良かったような気がします。
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