このレビューはネタバレを含みます▼
小児科医の中道の働く病院に、前院長の息子である堤が研修でやって来ます。明るく人懐こい堤ですが、何故か中道には嫌悪感を向けてきます。実は中道は前院長の愛人であり、堤はその事実を知っていたのでした。尊敬し、自らも医者になろうと決めた父親の浮気相手が同性で、同じ病院の医者であることに抵抗を隠さない堤ですが、次第に中道に屈託無く接してくるようになります。やがて前院長の容態が急変します。臨終の夜、中道は立場をわきまえ看取ることもせず、でも「先生は息子さんが好きだった」と堤に伝えるのでした。家族は既に無く、さらに愛する人を亡くし声をあげて泣くこともできず一人苦しむ中道に、堤は心をよせるようになります。愛人としてひっそりと影のような生き方をしてきた中道と、その影を包み込むような明るく光に満ちた堤との、ほろ苦い大人の恋のお話で、それぞれの心情が丁寧に描かれます。2005年発行と絵に時代を感じるものの、しっかりと読ませる佳作です。