まことしやかに舞う花は
」のレビュー

まことしやかに舞う花は

束原さき

咲く花、散る花、秘する花

ネタバレ
2021年6月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ 昭和10年代後半、ドイツから9年ぶりに帰国した倉本颯太朗には、幼馴染の遊馬春臣に一言謝りたいとの思いがありました。かつて幼い颯太朗は、女形として舞った春臣に、とても良かった可愛かったと言って簪を渡したのですが、翌日春臣はバッサリと髪を切り、簪を身につけることも無かったため、悔しくてお前の踊りなんか大嫌いだと心にも無いことを言ってしまったのでした。それきり話すことも無くやがて日本を離れた颯太朗は、もう一度春臣の舞う姿を見たいとの想いから、春臣が舞う予定の料亭に身分を偽り下男として入り込みます。そして美しく成長した春臣の女形姿での踊りを見るのでした。
春臣を傷つけてしまったという後悔で苦しんできた颯太朗、幼い心に芽生えた恋心を隠す為に口を利かなくなった春臣、再び出逢ったことで二人は幼馴染ではない確かな想いをお互いに抱くのですが、そこにひたひたと戦争が迫ってきます。軍需産業、戦争未亡人、空襲、そして徴兵。戦争という時代に巡り合わせた二人が、それでも想いを遂げる甘やかな恋物語。現代とは違うゆったりとした時間の流れが感じとれる作品です。
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