極夜
」のレビュー

極夜

文善やよひ

忘却の海に呑まれても残るもの

ネタバレ
2021年7月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ 『満月の王』の完全版。現世と常世の二つの世界の狭間にある旅寓には人ならざるものが立ち寄ります。ある日訪れた常世の王•ツクヨミは、元は常世の者では無く、人柱として常世に住むことになった人間でした。旅寓で働く天野は、ツクヨミが幼馴染の観月にそっくりなことに驚きます。かつて観月は天野を夜の海に呼び出し、突然口づけると自ら海に身を躍らせ姿を消したのでした。天野は、現世での一切の記憶が無いツクヨミを旅寓から夜明け前の海へと連れ出します。そこでツクヨミは、相手のことは思い出せないものの、好きだった相手を常世に送る代わりに自分が身を投げたことを思い出します。そして天野はツクヨミの仮宿となり、現世を捨てて常世に行く決意をします。
独特の絵柄と、和でありながら大陸的であったり洋の雰囲気もある不思議な世界観が織りなす佳作ファンタジーです。忘れてしまう相手を寂しく切なく思うのでは無く、それをも受け入れる天野に、最後にツクヨミが語りかける言葉が深く余韻を残します。満月の下、常世の花の咲き散る中に、現世に生きた過去の二人の後ろ姿が今の二人に重なるラストシーンは、ただ美しいです。
可愛らしいツァイホンが楽しめる『鴆』の番外編も収録されています。
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