新宿ラッキーホール
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新宿ラッキーホール

雲田はるこ

苦味という名前を受け入れて生きて行くこと

ネタバレ
2021年7月31日
このレビューはネタバレを含みます▼ 桧山苦味(くみ)はゲイビ制作会社ラッキーホールの社長であり、かつてはポルノスターKとして活躍した男優でした。そのゲイビのスカウトをしていた佐久間とのかなりの不思議な関係を軸とした連作集です。
明るく軽い苦味と、飄々として掴み所の無い佐久間という現在の二人を中心にしたコミカルな3編に続く『陽当たりの悪い部屋』で二人の出逢いが描かれます。
借金のカタに、ヤクザの下っ端である佐久間の元に連れて来られた苦味は、ごく普通の高校生でしたが、佐久間から売り物になる為の手解きを受けます。やがて、どこにも行くところが無く、待つ人も無く、生きる意味さえ無い苦味の為に佐久間はある決心をします。
2巻の『ロンググッバイ』では、それからの二人に、縁を切った筈のヤクザが再び絡んできます。恋愛という甘い関係ではなく、家族という安らかな関係でもなく、それぞれの生涯を賭けた深く強い絆で結ばれた二人が描かれます。
苦味の、何も持たないが故のあっけらかんとした明るさと強さが、温かくもあり哀しくもある重層的な作品です。
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