髪を切りに来ました。
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髪を切りに来ました。

高橋しん

この優しさは本物

2021年8月2日
沖縄の離島に美容師の睦と息子の一星が東京からやって来ます。慣れない島ぐらし。作者さん曰く、何も起こらないお話。妙に惹きつけられて、その日に本屋に向かい3冊まとめ買いしました。本能に従って正解でした。宝物を見つけたんだと思いました。ゆっくり大切に読み進めました。キラキラ優しい表紙から癒やし系かな?と思うところもあったのですが、この作品の優しさはそういうフワフワした綺麗な優しさではありませんでした。沖縄の黒島を訪れた時の、市街地に住む私には入り込めない空気を思い出しました。おじい、おばあ、島民の方の言葉が胸に刺さります。睦さんの気持ちに共鳴して何度も泣きそうになりました。BSでイタリアの小さな村の日常を、村人の方にスポットを当てて描く番組がありまして。村人の方々が発する言葉があまりにも人生が詰まっているというか、よくボロボロ泣いてしまうんです。どうしてこんなにも彼らの言葉は重く優しく悲しく愛に満ちているんだろうと常々感じていたのですが、本作の「なんくるない」の真意を教えてくれたオジイ、テビチを教えてくれたオバアの言葉でその理由が少し理解できた様に思いました。何も起こらない日常を綴ったお話ですが、心も五感にも大いに沁み渡りました。見開きページで息を呑む位美しいシーンが多々ありますので、なるべく見開きや大きい画面で読まれる事をオススメします。
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