中国の壺
」のレビュー

中国の壺

川原泉

面白いと思う人だけではなさそうなのが残念

ネタバレ
2021年9月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ ゆるふわ絵柄で独特の展開、不必要な描写を大胆に省いて、妙なところでちょっとした思索に耽る。その絶妙な空間に遊ぶ。熟語が沢山入って、目新しい言葉の世界で文字化された説明的表現と、登場人物達によって平易に表されたその観念の翻訳とが並ぶ。
直前に9月8日迄5巻無料版の一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」(現状全19巻)を無料分だけ一心に読んでいたから、余計ギャップが。有閑倶楽部は掲載誌の読者層の為に、人名以外のところで平仮名だらけ。それでいて、銃撃戦にカーチェイスとゴツいストーリーがある傑作。
全く比較のしようもないほど、この「中国の壺」はおっとりしてる。それでいながら使用漢字も凄いが文字情報自体大量。漫画を、文字が嫌で絵ならOKという人が読みたい場合、川原ワールドの面白さに嵌まれないだろう。
表題作1989年作品のほか、「殿様は空のお城に住んでいる」1990年「Intolerance...-あるいは暮林助教授の逆説(パラドックス)」1985年「かぼちゃ計画」1989年がストーリー漫画、「追憶は春雨じゃ」1989年「川原のしあわせ」-年不明がエッセー風漫画。

135頁、先生は手書き文字にて「老」を用いているのに、吹出し内の活字が2ヶ所も「考」になっている。
出版社は確認して出して欲しい。

川原先生のところのレビューで見かけた訳ではないが、絵の古さや、内容の時代のズレを評価の下げ要素にされているのをよく見かける。
「今」の絵である必要はないと思っているし、「今」を描く必要もないと思う。それらがあって全然構わないが、世に送り出された(送り出される)多様な作品の中で、同じタイプのものばかり読めない。過去好評だった漫画を今読んで今の感覚だけで古いからダメ、などと決めつけて欲しくない。懐かしく読む人が、その頃の気分を思い出して浸って高評価を付すことのどこが悪いのか。
別作家の作品では、ストーリーへの不満自体が、その作品では表されていない内容(人が一人も死んでないのに、死んでいく話だと書かれていたりした)を述べていた。
完結作は、内容を不当に捏ねることのないレビューをしてあげて欲しい。でないと、作り手の作家魂を毀損しかねないように感じる。
私など描きたくても描けない、産み出したくても貧困な創造力で産み出せない、そんな絵心と物語創作力の実力があるから、大勢支持者がいるプロの先生の力は、低評価など私なら到底安易に出来ない。好みはあっても。
いいねしたユーザ12人
レビューをシェアしよう!