初恋のあとさき
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初恋のあとさき

日高ショーコ

当時の仁科の気持ちがとてもよく分かる

ネタバレ
2021年9月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 作者買いするつもりでリストに入れていたんですが、皆さんの仁科の評判が悪くて余程シリアスなお話なのかなと、なかなか手にできずにいました。
今回シリーズ全部を読了、このお話が一番好きだなと。
ストレートの高校生がゲイのクラスメイトと付き合って、お互いに好きだと、一緒にいるのが幸せだと思ってはいても、相手を欲しいという熱量に差があれば関係を深める事に怖さを感じるのは当然のこと。ましてや同性で思春期で。
たまりかねて最後に酷い台詞を投げてしまった仁科のその言葉の酷さは、その後の美山の恋愛観をすっかり歪めてしまったことで責められて当然だけど、後に美山が独白しているように「仁科の逡巡を無視し続けて」強引にコトを進めてしまった美山も大概酷い。嫌がるのを半ば強引に抱いて、挙句卒業後は一緒に住もうなどといわれても、とても気持ちがついていかない。「なんでお前は俺の話を聞こうとしないんだよ!!」という言葉に美山の追い詰められた気持ちが詰まっていて、振り切って逃げることしか考えられなくなったのもとてもよく分かると思ってしまいました。
好きな気持ちが大きくなってお構い無しに突っ走ってしまうのも、逆に周りの目が見えてしまって受け止めきれなくなるのも、若くて未熟故にしょうがなかったこと。
仁科によってできてしまった美山の人生の大きな空虚を埋めるのは仁科にしかできない。
仁科の全てを忘れられずどうしようもなく引きずったままの美山と、記憶に蓋をしたことで自分の大事な部分が欠けていた仁科、初恋のところまで戻ってもう一度進む努力をすることにしたふたりが、それぞれの空虚を理解し合えるくらいには大人になった様子が良いなぁと。
後日談(After: あれからぼくたちは)を見た限りでは美山の方が仁科のややこしさをしっかり受け止めて(許して)いてクスッと笑ってしまいました。
もう少し先を知りたいし、駆け足だった高校生時代のエピソードももっと見たい。欲が募ります。

同シリーズの「嵐のあと」のSS、「double line」。
こちらも一筋縄ではいかない大人の恋愛。付き合い始めて2年経って、それから先をどう付き合っていくのかを考え始めたふたりが今後どう歩むのか。未来へ想像を膨らまさせる終わりが爽やかでした。満足。
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