心理戦の結末





2021年9月12日
「毒王…」とアンソロの短編を読んでいますがどの作品も作者の個性の前ではどんなレビューを書いても伝わらない気がします。舞台は貧しい田舎町で時代は昭和20年代ぐらいでしょうか。後半に戦後というワードが出てきたので。他の作品で戯曲みたいとレビューしたのですが、セリフとモノローグがすごく多いのに全体通してリズムがあり、そのボリュームも緩急あってやっぱり戯曲みたいです。凍月の顔つきが前半と後半でまるで違うのも顔が見えなかった凍月の妻が現れるのも舞台劇の演出みたいな作者の手の内が上手いです。作者のあからさまな性描写があまり好きではなく、正直美しいとも思わないのですが生きていることの生々しさを感じるようなそれでいてドライな感じもします。オセロのように凍月と奏の気持ちが表へ裏へひっくり返り心理戦のような展開です。前半あんなひどい仕打ちをした凍月とされた奏。愛ではないものから始まった関係が愛かそれに似たものに変わっていくのは納得いくはずないのに読者もまた願ってしまうという、上手く言えませんが自分もこの心理戦にまんまとはめられたんだなと思いました。

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