燃ゆる頬
」のレビュー

燃ゆる頬

小野塚カホリ/堀辰雄

瞬くような青春の残酷さ

ネタバレ
2021年9月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 以前、『美剣士』を読んで衝撃を受けた作者さんで、フォローしている方のレビューで、こちらも読んでみたくなりました。(読み放題対象)
「少年愛」の世界というものに触れてこなかった者としては、その世界の尊さを読み取ることはなかなか至難の業であり、その世界を知って浸れることを羨ましくも思います。
そんな私は、フォローさんとは違う読み方をしていて…。「死」よりも主人公の虚無を感じさせる中にある「生」を印象付けられました。サナトリウムの白樺荘で出会った17歳の少年を三枝と重ね、解放的な眩しささえ感じる少年の姿を目にした彼のモノローグは、二通り。「居場所を見つけた」と思うも、すぐに「阿呆だ」と打ち消す。三枝といながら、旅先で出会った少女に目と心を奪われた彼の本音が漏れる。あの時の、彼にとっての本当の意味での性への目覚めは、責められるものではなく、ただ、寄宿舎という環境に流される若さしか持ち合わせていなかっただけなのだな…と。そのときの燃える頬は、今はない…。最後まで三枝に返事を書かず、すでに「青春」のときを終えた彼は、例え病が回復せずとも、三枝の元へ自らいくことは選ばないのではないかと、そう思いました。
ただ、病に臥せ、そこから抜けられなかった三枝の姿、想いは、本当に辛く、若さを呪ってしまいます。痛みに耐えながら手紙を書く三枝に、叶わぬ青春(恋)の残酷さを突き付けられます。三枝と同じ病を患い、臨終近くまで書くことで自らを保っていたとされる正岡子規のことを思い出し、あぁ、なぜ彼は三枝に返事を書かなかったのか…と、三枝を想うと、ただただ胸が詰まります(でも、17歳の私も書けなかったかもしれない)。三枝の死の真相は分からないけれど、「明日こそ」と思いながら、届かぬ返事に絶望を募らせたに違いなく、自分を保つこともできなくなってしまったかもしれない。なんとも、やるせない余韻が残ります。
物語の雰囲気に絵がぴったりとハマっていて、惹きこまれました。花と蜜蜂の描写、「ちょっといじらせない?」が特に残っています。とても良かったです。
ちなみに、フォローさん、主人公の彼は「君」「お前」「あなた」「僕」でした。私は、兎の面を付けた彼が気になってしまって…困っています😓
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