このレビューはネタバレを含みます▼
最初に読んだとき、イキガミと判定されれば拒否権なく人間兵器とならなければならず、ドナー適合性があるとなったら拒否権なく身体のあらゆる部位を生体移植しなければならない世界感にJ国の人権感覚とか倫理ってどうなってんの?ドナーは奪われるばかりの立場なのに大人しく従っている吉野(受)って?と違和感が残ってしまい、ヒコ先生ファンなのに再読してなかったんです。
電子コミック大賞ノミネートを機に再読してみて、瑣末なことにとらわれるより作品世界に飛び込む方がよっぽど良かった!と大反省。平凡な中学教師吉野の、戦神と囃し立てられるイキガミの生き様に深く共感を覚え、愛情を受けたことも感じたこともない鬼道の生き様に思いを寄せ、素直に甘えてくる鬼道に愛情を抱く、とんでもなく包容力ある人間性が魅力的に見えて。不条理な世界の中だからこそ生まれた、唯一無二のイキガミとドナーという特殊な関係の下、イキガミから唯一の存在として唾液や血を分け与えることを求められることによって自分自身が特別な存在であることを自覚すると共に、ドナー自身が自分から血肉をも犠牲にして構わないと思える程の愛情を抱く過程が丁寧に描かれ互いに離れがたい関係になったその時に、生死をかけた戦闘に2人が巻き込まれる怒涛の展開と死に直面して揺れ動く2人の感情が切なく、涙がツーと流れてくる。さすがヒコ先生、涙腺のツボを突くのが上手い。脱帽です。
気になっていた設定の理不尽さは、下巻で防衛庁イキガミ班の柴田が動き出し、気持ちが救われる。個人的には、元ドナーである柴田が寂しん坊の鬼道にはドナーから愛される可能性があると伝えていながら、人気者のイキガミ滝には、ドナーと恋愛関係になることはないと鬼道と違う説明をした理由が気になった。ワンコ系人気者に懐かれたら惹かれてしまう可能性を察知して予防線を張ったのかも。最後の滝くんにバックハグされる柴田の表情たるや!クールそうに見えて実は恋愛に臆病な可愛らしい人なのではと思えてきた。
もしスピンオフが出るなら、柴田さんがドナーになってから、イキガミとドナーの制度の見直し後までの長いスパンで滝くんとの恋愛の行く末も含めたお話が読みたい。
そして下巻からがヒコ先生の本領発揮です!心理描写が素晴らしく感情が揺さぶられます!