ラムスプリンガの情景
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ラムスプリンガの情景

吾妻香夜

アーミッシュの選択に賭ける思い

ネタバレ
2021年10月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 非常に残念なことにアーミッシュの事をかなり前から知っていました。(最初はジョン・ブック。次にアル・ヤンコビック。パッチワークをやっていたのでアーミッシュキルト。)
その文化と戒律を知った時はまだ若かったせいもありかなりの衝撃を受けました。
今作の山場に当たるラムスプリンガの選択も、なぜほとんどの若者がアーミッシュとして生きる選択をするのか?不思議でならなかった事を覚えています。
知らずに今作を読めていたらきっと大きなショックと共に感動もかなり大きかったんだろうと思ってしまいました。

主役は絵に描いたようなアーミッシュの青年(苦肉の策を弄して20才)と、夢破れ、ウリをしているニューヨーク出身のダンサー崩れ。
この解りやすくもドラマを産む対比がエンターテイメント性を高めています。
あくまでもドラマチックに描こうと言う作者様の意気込みを感じました。

最も心に残ったのは「素晴らしい呪い」と言う言葉です。
クロエは恋を指して言っていますが、これはアーミッシュが思うアーミッシュの生活全部に対する言葉に受け取れ深く心に刺さりました。
16歳まで一切外部に触れさせず戒律を守ることしか知らない子ども達にとって、我が家.我が故郷は素晴らしき呪いの他ならないと思ったのです。
キリスト教で天国に召される資格は良い行いではなく、どれほど信仰心があるかによります。
良き人であっても信仰がなければ入れない。
ましてやアーミッシュの場合コミュニティから出る事は信仰を捨てたと同意義なのです。
なのでテオの決意は永久追放のみならずキリスト教徒として絶対に地獄に堕ちる事も含まれている訳です。
私は無宗教者なのでそれがどれほどの苦しみなのか想像はできませんが、テオの気持ちの強さが並大抵ではないのは解ります。

さて手に手を取って旅立った2人ですが時代は1980年代、そろそろ国内にアーミッシュの異質さが広く伝わり出した頃です。
テオが傷つき怒りを表しながらも都会での生活を楽しめる事を願ってしまいます。

ダニーがけがわらしいと叫んだ男色行為も最近ニュースとなった聖職者の性的虐 待の8割が10〜13歳の男の子だったのを思い出し、なんともやるせない心持ちになってしまいました。

余計な事ばかり書いてしまいましたが、わりと禁忌に近いアーミッシュについて、こんなドラマチックにBLとして描いた作者様に心から賛辞を送りたいです。
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