ロマンティック
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ロマンティック

西田ヒガシ

日本と紛争地帯、真逆な環境の二人の共通項

ネタバレ
2021年10月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 39歳の元国語教師の前田は、ネットの教え子の女性に会う為に紛争地帯にやって来ます。それは、子供の頃に思念でスプーンを曲げられる自分は人類•世界を救うのだと信じていた使命感の微かな名残りでした。今はもうスプーンは曲げられず、彼女に会うどころか破壊された町で政府軍のトラックに拾われた前田は、そこで捕虜となっていた反政府軍のジョンと出逢います。縛られたまま犯されていたジョンの手首の拘束を思念で切ることのできた前田は、ジョンと行動を共にするようになります。戦うことが好きだというジョンは、年を取ったり若返ったり驚くほど見た目が変わります。一方、前田の超能力は自分には効かず、ジョンを守る為にだけ発動するのでした。
日本に何も持たない空っぽな前田ですが、元軍人で今も反政府軍の兵士であるジョンはゲイであり、愛する人も守るべきものも大切なものが何も無く、死をハッピーエンドと捉え、兵士達の欲望の捌け口となることが愛なのだと語ります。彼らへの愛だけを心に抱いて一人の場所で目を閉じるのだと。
死と隣り合わせに日常がある特殊な場所で巡り逢った二人の関係は、恋というには殺伐として不恰好ではあるけれど、堪らなく甘く切ないです。まさにタイトル通り、現実を離れ情緒的で甘美なさまが描かれます。
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