このレビューはネタバレを含みます▼
夜の店でピアノを弾く絹川祐介は、毎晩のように聴きに来る鋭い目をした端正な顔立ちのヤクザ•深見光が気になっています。やがて深見はピアノを教えてくれと祐介に頼みます。普段は物静かですが、激した時には乱暴で冷酷なヤクザそのものの深見に祐介は恐れをなしますが、深見に強く惹かれる祐介は深見に関わり続け、深見の危機には闇雲に駆けつけるのでした。そして同性からのアプローチを嫌悪する深見に敵対する組の幹部•有島が執着し、有島はクスリを使い深見を我がものにします。元々アンバランスだった深見は、それをきっかけにクスリと暴力と祐介との愛の無い身体だけの関係を求めるようになります。そんな破滅的な深見の姿を見て、祐介は泣きながら深見の幸せを念じるのでした。人として大きな欠落を抱える深見が、祐介を始め有島や側近の工藤を惹きつけるのは、その不完全さ故かもしれません。暴力的なシーンに、ピアノ、ケーキ、ムーンライトソナタ等が的確に配置されていて絶妙なバランスで物語が進行します。深見を見守り続けた工藤のその後は『青春の病は』所収の『天国が見える』で読めます。