青楼オペラ
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青楼オペラ

桜小路かのこ

両親の死 吉原というところ 江戸時代の男女

2021年12月31日
思いっきり話の世界に遊ぶことが出来た。
物語の中にある嘘(作り話という宿命の抱える)が巧みで、生き生きしている。
ただ当時の女性の哀しさもところどころに差し込まれ、「苦界」の名が表すものに想いを馳せたりもしてしまう。

その世界は悲哀一辺倒でもなく、流行り物等の庶民文化の活気や、武士階級というものの一端が描写され、豊かなストーリーが練り上がっている。

お話だからうまく行くのだ、との見方も出来ようが、私は別に吉原の女達の当時の地獄を知りにこの少女漫画を読みに来ていない。吉原に入った主人公の波乱のひとときを垣間見せてもらって満足だ。史実やリアルを追求しないという点で本作を好まぬ人は、ご都合主義タイムトラベルファンタジーも読まないのだろうか? この作品は地獄を描写することが主旨ではあるまい。真相究明が前提。

唐突な結末近くの暗転は、少し読者を最後までやきもきさせたいだけなんじゃなかろうか、との疑惑が薄々あるが、時はたがえど現代から見ると遠い江戸時代の、惣右助の居た業界には降りかかった大惨事であることなのだから、細かいことは気にしない。その力業、あっぱれに思えるくらいだ。

当時の風俗、小物や習慣などを描写してくっきり浮かび上がり魅力的な舞台だった。
少女漫画なので、惣右助に夢が詰め込まれていて、ツボを心得た行き届いた立ち回りが背骨となって、読んでいて安心感もある。しかし朝明野のことが辛かった。惣右助に勝るとも劣らぬ重要人物利一がまた、己の幸福は朱音の幸せ、という胸キーンと痛む(どれだけ安心できる存在か、頼もしい側近(?)か!)素材。イケメン設定なのに!
前半の犠牲者達が物語の重さと暗さを背負っているが、朱音と惣右助の二人の恋の灯しびには、夜の町に似合わぬ明るさと逞しさがあり、女性の悲哀にウエイトを置き過ぎない、いい基調を作り出している。読むのに気を滅入らせない、ストーリーの持つ前向きなパワフルさがいい。
二人の行く末を見守る読み手に程よい甘さを持たせて酔わせてくれる。

以前から関心はあったのだが、 BLACKBIRDがお色気路線強かったせいで、本編が吉原舞台とあって実は誤解していた。むしろこちらの方が清いので吃驚。
いい意味で想定外に感心した。

吉原物なのに、アダルトというよりはある意味正しく少女漫画で、彼女らをしかしこうもスラリ描いてあるのがめそめそお涙頂戴でなくてキレイな感じ。
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