ベイカーベイカーパラドクス
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ベイカーベイカーパラドクス

暮田マキネ

考察と妄想が捗る良作品

ネタバレ
2022年1月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ 249ページ。
実兄弟もの、好きなんですよね。誰にも迷惑をかけない狭く閉じた幸福という点で、禁忌ではあるものの近親ものの中では倫理的に最も問題がない関係性(個人の感想です)。なので、重いとかドロドロとかは特に感じず、兄弟それぞれの純度を堪能させていただきました。
1話目だけ見ると、ユキの頭の弱さに臣がつけ込んでいるように見えるしユキも頭が弱過ぎるんじゃないかと心配になったけど、違かった。この「兄弟ルール」こそが作品の肝だった。偽の社会的ルールというだけでなく「にーにが作った」という嘘を混ぜることによって成立しているこのルール。弟目線では、“引け目を感じつつも兄を自分の恋人にしておける、でも嘘に気付いてかつての自分を好きだった兄に戻ってほしい気持ちも含まれている”。兄目線では、“自分が作ったルールという嘘を信じていれば恋人ではなく兄でいられる上に恋人気分も味わえる、嘘だと気付いたら現状が壊れてしまうのがおそろしいから無意識の内に信じ込もうしている”。複雑!そしてこのルールがあるからこそ、記憶が戻った後、ラストの告白シーンでのユキの心情のジェットコースターぶりが思いやられて悶える……!
ヤマは良い子、美亜もおバカながらも良い子だった。
「ファザー〜」が重みが足りなかったのでこの作品に手を出すのが遅くなったけど、これは読んで良かった。
書籍的には、電子特典にパイロット版を付けたのは非常に有能。シーモア特典、これ限定でいいの?ってくらい素晴らしい。
((以下、妄想))
さて、一応「現状維持」の状態でこのお話は終わっているけども。従兄もヤマくんもユキの記憶が戻っているのに気付いているくらいなので、臣が気付くのも時間の問題でしょう。ユキも一生隠し通そうとはたぶん思っていない。現状の幸せは臣が両親を引き受けているから成り立っていて、本当の幸せを手に入れるために、ユキは自分と臣から両親を切り離す方法を考えているはず。それができるまでは現状維持のために隠して、臣も無意識のうちに気付いていないと思い込もうとするはず。
完璧な幸せへの勝負はおそらく大学卒業のタイミング、それまでは仮の楽園で楽しく暮らすと良いね。
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