ちょっとおバカで幼さを残す兄の面倒を見るしっかり者の弟、兄弟二人のゆるふわな日常とその根底に眠る深い闇を描いたお話。
マキネ先生ワールド全開の作品で、ほんわかゆるふわな明るい日常の裏に、ゾクッとするような闇が漂う物語です。天真爛漫で無邪気なにーにと、そんなにーにを溺愛し、過保護になる臣。その過去には、不幸な事故へと結びつく歪んだ愛情が存在します。実の兄弟同士という問題作を記憶喪失と幼児退行という手腕で闇深く落とし込み、シュレーディンガーの理論を絡めて幸せに持っていくなんて無謀なやり方を描ききれるのは流石だなと思いました。また、親の存在感を最後まで徹底的に排除し、にーにと臣、ノリちゃん、ヤマと登場人物を絞ったことで、個々の性格や関係性が際立って表現されていたことが、物語への理解を生んだと思います。
ユキが目覚めてから、ノリちゃんがすぐに変化に気が付いたのも、ヤマがさり気なくアドバイスするのも、皆十亀兄弟をきちんと理解して寄り添ってくれているからだと思うと、怖さよりも優しさに溢れた作品なのではないかと感じました。二人がいつまでもシュレーディンガーの箱を開けずに幸せでいることを願います。