鏡よ鏡、毒リンゴを食べたのは誰?
」のレビュー

鏡よ鏡、毒リンゴを食べたのは誰?

小中大豆/みずかねりょう

10年間の一途な想いのその先へ

ネタバレ
2022年2月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ すごく面白かった!小中大豆先生の作品はどれも楽しく読めるけど特別はまるほどではないという感じだったんですが、こちらは自分の好みにガツっと嵌まりました。
特別に変わった設定などがあるわけでもない普通の現代ものなのですが、ストーリーに緊迫感と迫力があって、のめり込むようにして一気に読んでしまいました。じっくりと恋愛を描いた物語がすごく読み応えあり、胸に染みて面白かったです。

永利目線の丁寧な心情描写がとにかく見事で、前半の孤独な気持ちをずっと抱えてきた辛さや紹惟に依存するように惹かれてしまう気持ち、後半の苦しみもがきながら1人立つ決意をする強い思いなどが手に取るようにわかって、まるで永利と同化して一緒に10年を生きているような気分になりました。

この作品は永利の成長物語でもあると思うのですが、簡単に事が運ばないところがすごく良かったと思います。ギリギリまで追い込まれた永利の感情が生々しく苦しい程で、これは上っ面だけじゃないしっかりと地に足ついた人間を描いているなと感じました。
特に後半の撮影の場面が非常に面白く、2人の関係と仕事とが絡み合った真剣勝負のやりとりにすごく興奮しました。

紹惟のやり方に関しては確かに酷かったかもしれないけれど、まぁ芸術家だしそこが魅力でもある訳で、突き放したのも自分自身で殻を破って欲しいという気持ちからだろうと思って読んでいたのであまり気にはなりませんでした。わかりづらいけど紹惟の愛を感じたし、一緒にもう一段上の高みに行こうってある意味最高のプロポーズではと思って胸が熱くなりました。
10年もの間彷徨っていたけど、落ち着くべきところに落ち着いたし、最後には甘いシーンも用意されていて大変満足しました。自分にとって当たりの作品に出会えて本当に嬉しいです。
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