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えすとえむ

ケンタウロスの美しさと切なさに胸が…

ネタバレ
2022年2月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ 無駄のない引き締まった体躯が、しなやかに躍動する姿は、ただただ美しい。長命の彼らは、自分たちの寿命も知らず、生きる。その生き方は様々で、それこそケンタウロスの数だけドラマがあるのだろう。歓びも悲哀も出会いも別れも。短編8話(6~8はシリーズ)、話タイトルは、毛色ですね。
・「薄墨毛」より黒味が強い彼は、大学生活を送っている。知り合いのケンタウロスは、鎌倉時代から生きているとか…。人間との命の長さが違いすぎて途方に暮れる。それでも、生きる長さよりも、置いていかれることよりも、「今」を覚えていたいという彼と彼に思いを寄せる人間の彼に、胸がいっぱいになる。
・「栗毛」の男の子は、まだ友達を乗っけることができない。早く大きくなりたかっただろうなぁ。「馬くさい」は照れ隠し?ヘルメットを用意してくれたところが優しくて、手をギュッと握って走る姿に、私の胸がギュッてなる。
・「青毛」と「白毛」の情事に混ざる迷子の人間。官能と好奇心に抗えないまま絡み合う姿に胸がドキドキ。
・「ヒョウ柄模様」の彼と真っ黒な古い友人が、とても艶やか。にじむ色気を感じる。これまでのケンタウロスより少し年を重ねて見える彼らは、どれほどの年月を共に生きてきたのか。約束を守る彼らに、胸が痺れる。
・「芦毛」の春駒、一体何世代に仕えたのか。子孫は自分の血筋も知らない。春駒と名付けてくれた人を見送り、呼んでくれた人たちに想いを馳せ、その血筋とともにあることを選んだ春駒の一生に、胸が締め付けられる。
・「尾花鹿毛」のような希少種を手にした人間の悪趣味な余興は、どの時代にもどの世界にもあるのだろうと思う。触れたいと思っていたのがケンタウロスの方だったかと驚いたが、息子の心を見透かしていただけか。それでも、息子の父とは違う心根は分かっていたからこそだと思う。確かに、詩的でもあると感じる。胸が余韻に満たされる。

・「ショーが跳ねたら逢いましょう」ですっかり魅せられた作者様の世界。堪能しました。
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