このレビューはネタバレを含みます▼
曲を作り、歌を歌って夢を追いかけてきた鉄太は、5年前メジャーデビュー目前に歌える声を失いました。他人の為の曲を作る気にはなれず、失意のまま海辺でギターを弾いている時に凪という美しい青年と出逢います。凪の何気なく歌う声を聞いた鉄太は不思議な衝撃を受け、自分の曲を凪に歌って欲しいと切望します。凪が父親と働く店に日参して凪に歌うよう口説くうちに、お互いに振り返らずにはいられない辛い過去があり、でもそんなお互いが側にいることで前に進んでゆけると確信するのでした。二人は練習を重ね、ついに初ライブを迎えます。海辺の町での物語は、心象風景に海、波、泡、魚が幻想的に差し挟まれます。一度は泡と消えてしまった鉄太の夢、失った声、海で亡くなった凪の母親、人魚姫の物語をオマージュとした全てのモチーフが、思いがけない展開を経て、最後に一つに集約される切なくも美しいファンタジーです。二読目には一度目には気付かなかった色んな伏線を楽しめます。