このレビューはネタバレを含みます▼
幼い頃、祖父の家で自分にしか見えない不思議な青年を見かけていた大沢航平は、祖父が亡くなり、その家に越してきます。幽霊なのか座敷童子的なものなのか、その青年は大人になった航平の前に再び現れ、会話も交わすようになります。昔、自分だけに見えていることが誇らしかった航平は、青年にまた会えたこと、さらに話せたことが嬉しくて、お菓子を買って帰ったり、コタツを用意したりして一緒に楽しく過ごすようになります。やがて航平が青年への恋心に気付いた時、若かりし祖父と青年の写った写真が見つかります。青年が祖父に恋をしながら亡くなったことを知った航平は、青年が成仏できるように何かできないかと青年に尋ねるのでした。ここまでが3章で語られ、それ以降は青年サイドからのお話となり、『美男葛の庭〜その昔〜』では祖父の若かりし頃のお話になります。航平のおっとりした人柄と、祖父のちょっと不器用で優しいところがよく似ていて、それぞれ想われる側、想う側で描かれているところが面白いです。昔風の情緒ある庭の、赤くて綺麗な実のなる美男葛の木が、昔の片恋と今の恋人達を静かに見守っています。