3番線のカンパネルラ
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3番線のカンパネルラ

京山あつき

ゆっくりと上昇してゆく失恋からの再生

ネタバレ
2022年3月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ 恋の始めからでは無く、失恋の痛手から始まるこの物語は、加納というちょっと根暗な男性の心象風景が描かれます。彼氏にフラれて1年半、まだ立ち直れていない加納は出勤のホームで、飛び込むと勘違いしたDKに抱き留められます。通勤電車を利用しながら、なんとなく『銀河鉄道の夜』のカンパネルラを待っていた加納は、毎朝顔を合わすそのDKをこっそりとカンパネルラと名付け、挨拶を交わすようになります。加納の送る日常と彼の思いが淡々と描かれる中、銀河鉄道、人生、リアルと3つの列車が並走します。その時々で乗り合わせる人、降りてゆく人と目まぐるしい中、ひと時を乗り合わせた高校生の存在はまさにカンパネルラのように眩しく、光の温かさで加納を支えてくれます。恋愛では無く友情とも違う、損得の無い不思議で優しい二人の関係が加納の新しい恋を後押しします。最後に、それまで一部ずつしかわからなかった加納の働く店名がわかり、タイトルに繋がります。
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