3番線のカンパネルラ
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3番線のカンパネルラ

京山あつき

人は自分の力だけでその尊厳を回復できるか

2022年3月8日
失恋によって自分を見失ってしまった主人公が少しずつ再生していく話。ある意味非常にリアルで先の展開が読めません。
他人から不当な扱いを受けると、自己の尊厳が傷付きます。自分の”根幹”が揺らぐ、という表現でも良いかもしれません。この主人公は、その根幹が揺らぎ、生と死の境界線すらも曖昧になってしまっています。それでも、日常を生き、その日常の些細なことから一歩ずつ再生へのステップを踏んでいきます。その描写が秀逸だと感じました。
自分を救ってくれる王子様が突然現れたりなんてしない。でも、周りには必ず自分に温かい眼差し(〜してあげよう、とかそういうものではなく、いい人だな等の対等な目線)を向けてくれてる人がいて、それは自分が当たり前に行っていることの結果であったりして、それに気付くのも、その眼差しを受け取れるかどうかも、自分次第。むしろ、自分を大切にできるからこそ、その眼差しに気付くことができる。気付くことができるから、自分で自分を大切にできる。こうしたループが、尊厳の回復につながっていくのだろうなと感じました。最終的には自分で自分を回復させるしかないけれど、その過程では様々な人たちの存在がきっと助けになる。すごく優しいお話で、とても心に沁みいります。自分の状態次第では泣いてしまうかも。
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