近代日本文学を絵巻で読むような感覚





2022年3月18日
明治後期の東北と東京を舞台に、青年期から大人になる七年間を、春夏秋冬のひと巡りとして描く物語。絵柄はいい意味で版画のようで、全てを描ききらずでも熱を帯びた細かな線が印象的な、この作風に合った雰囲気。高利貸しのヤクザな年上攻めと医師を目指す純粋な青年の恋。共感や倫理の次元を超えて、純粋で生々しい惹かれ合いを受け止める気持ちで見守った。背景が丁寧なだけではなく、背景と登場人物が溶け込んで、春夏秋冬が巡る中での情景として描かれているのが、絵巻のようでとても好きだった。この時代かなりの家柄でないとあのような洋館で洋風の暮らしをしておらず、水道の蛇口もまだ家庭普及率はかなり低いはずで、細部の時代考証で気になるところも時々あった。時代のリアリティーを感じるというより、明治を舞台にしたノスタルジックなフィクションとして楽しむのが良さそう。キュンを求める時というより、漫画として奥行きの深い作品をBLジャンルで読みたいときにオススメ。星4.5。

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