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今月(4月1日~4月30日)
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シーモア島


投稿レビュー
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今一番続きを楽しみにしているオメガバース2023年4月23日オメガバースの設定はBLじゃくても面白いのでは、と一度でも思ったことのある全ての人に勧めたい。オメガバース舞台の社会派ストーリーと切ないBLがミックスしたドラマチックな作品。名家の没落とか底辺階級の逆襲とか、結構ドロドロの愛憎劇、しかも群像劇とあって読むには体力がいるけれど、先生のパワフルなストーリーテラーっぷりを尊敬しつつ追ってます。先生の作品では、善悪に割り切れない人間の業を描かれるところが大好きで、長編の本作でもそんなところが見え隠れするのが奥深い。数々の癖あるキャラクターたちもそれぞれ見応えある中、自分は伊織の幸せがある未来を願ってます。
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疲れてる気持ちに沿う作品だった2023年3月13日先生の作品は、良い人ばかり出ないところに味がある。完全なクズまでいかない、エンタメにするのが難しいリアルな不完全人間の人間味。だから文芸っぽいし、ポジティブばかりのファンタジーロマンスに食傷気味な疲れた心にぴたりと共鳴する。本作品も久々の読書で、ずっと何も読む気すら起きなかったけど何か読みたいなと思った心に、すっと入ってきてくれた。場末感ただよう、言ってしまえば底辺の、でもだからこそ居着いてしまうような場所に堕ちてきた落ちこぼれの人間。そんな場所で孤高に自己を保つアケミちゃんも、彼は彼でうまく生きあぐねていて、そんな2人の寄り添い方は身に染みた。とてつもない浮き沈みのドラマは無いが、等身大で人生を切り開いてく様はいい。絵も美しい。恋愛だけに収束しない人間関係を描いてくれる先生の作品を、いつも尊敬します。⭐︎4.5。
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憂いを携えた幸せもまた良いものだと思う2022年10月16日ポルノグラファーシリーズ最終作。(物語軸としては本作より前に描かれた静雄のスピンオフ『アケミちゃん』が後。)私としてはインディゴが最高ではあったけど、トータルで素晴らしいシリーズだった。本作は、初めて読んだ時は冷や冷やした。幸せを壊しにかからずにはいられない小説家の性。一生懸命追いかける年下の彼がまた本当に真っ当で純粋な青年だけに、この先生でなければ誰かと穏やかな未来が築けただろうと思うと、要らぬ苦労に自ら嵌まり込んでるようで。でも、お互い自分に無いものに惹かれ合い、似た者同士で理解し合うというよりは、相手の世界を尊重しながら、良いところだけでなくダメなところも含めて愛おしむ生き方を選んだんだろう。再読すると、序盤中盤のワチャワチャには相変わらず疲れたけれど、ラストにかけて、シリーズトータルで描かれてきた、憂いを仄かに含んだ幸せを、落ち着いて味わうことができた。このシリーズ第一作がデビュー作とは、作家さん本当に恐るべし。心から拍手を送りたい。
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可笑しくも哀しい。佳きドラマ2022年10月14日笑えそうで笑えない、笑えなさそうで笑える、哀愁があって退廃的で下らないユーモアに味のあるドラマを乗せてきてくれたBL。スピンオフの『インディゴ〜』が大好きで、そのためにも値下げとなってる今多くの人に今シリーズをお薦めしたい。残酷で、純粋で、不器用で、本当は愛のある、クズ作家の色っぽい主人公が、シリーズ通して痛々しくもありながら愛おしく感じた。かかわる人々はみな振り回されてしまい、ある種受難なところもあるけれど、その受難を避けずに引き受けて生きていく、懐の深い周りの人々の選択もいいなと思った。色々な意味で大人な作品。先生のドラマはいつも面白い。⭐️4.5
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ミステリアスでダークで美しいファンタジー2022年10月3日よくある「時を駆ける」系統の物語なのだけれど、時を駆けるが故に切なくなる王道ラブストーリーとは毛色が違う。ミステリアスでダーク。虐め、妬み、恨み、自己愛、などのコンテンツもストーリーの中で重要な位置付けとなっている。その中で二組、百合ともBLともつかない色香が不安定に漂っているのが既刊分までの展開。絵は美しい。一巻ごとに色味が変化していく綺麗で繊細な表紙の雰囲気は作品にも反映されている。いまのところ、台詞や演出に感動したり考えさせられたり、と心が動かされる側面は自分にはそこまで無いけれど、絵と独特なテイストが印象に残る作品で最後まで見届けたい。星3.5。
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切なく始まった続編も傑作になりそう2022年9月3日最高の完成度の本編でも、日高とコウの余韻がありすぎる失恋だけは読みたいと願わずにいられなかった。まずは何より、続編を書いていただけた事が感激!そして、日高とコウを読めればと願うだけだったのが、優士と駿人のカップルの描き方もやっぱり素晴らしいなと思った。なんの装飾音も無いたった数コマの絡みでも、2人の欲情と想いを余す所なく演出するとか、、、どれだけ豊かな表現方法を携えているのかと感動した。
問題の、日高とコウは、、、皆さん、新しくキーパーソンとなった吉田さんに賛否両論あるようですが、今後がどうあれ、間違いなく彼は日高にもコウにも新たな気づきをくれる人だろうと。既に日高には、人生の羅針盤の針を他の方向にも動かせる可能性を、それが可能性にしか過ぎないとしても、見せてくれた。ソツなく享楽的な生き方を選択してきたコウには、例えそれが生き方を揺がすことになろうとも、違和感と向き合い本質的な考え方をする方向に誘った。その中で、吉田さんもこの2人からかけがえのない気づきを得るんだろうなと思う。全ての人が痛みからも幸せからも成長して生きていく姿を見せてくれる秀良子先生は、この続編でも、予想を超える秀逸な表現方法で、びしびしとそれを感じさせてくれると思う。どんな旅路を歩もうと日高とコウの今後をありがたく見守り応援したい。 -
この作品に辿り着けたことが嬉しくなる作品2022年8月9日作者買い。期待に違わずどころか想像を遥かに上回る完成度の高い素晴らしい短編だった。たった44ページの中でこれだけの人生を魅せてくれるとは。これだけ心を動かしてくれるとは。長編も上手いストーリーテラーの先生が、今作では短編だからこそ引き立つ語りと展開でぐいぐい読ませてくれる。先生の作品にはいつも試練から自ら這い上がる力がモチーフとして存在していて、今作でも、ゲイのアイデンティティという直球のテーマでそのモチーフが生きている。父と子にスポットを当て、彼らと彼らを取り巻く人々がひたすら毒のない愛に満ちている。愛に満ちていても、やはり試練はあり、それぞれが切なさや辛さを乗り越えて前を向いていくその推進力の強さを支えるのはやはり愛だという、二重の構造が素晴らしく、夢があった。重ね重ね、この充足した内容で短編だとは恐れ入る。毒のない先生の作品は珍しいけれど純粋な感動作でも素晴らしい。天才的なクリエイターだと思います。
自分にとって、短編の傑作『たったひとつのことしかしらない』に並ぶ忘れられない作品となりそう。 -
楽しい、巧い、萌えの三拍子揃ったラブコメ2022年6月5日結構冒頭から激しいのでBL初心者にはビックリかもしれないけれど、BLのラブコメや年下攻めが好きな人にはエンタメ作としてかなりオススメ。コメディタッチの中で、出会い系で知り合っただけの二人が身バレするのかしないのかのスリルもたっぷり、萌えもたっぷり、スピード感があって飽きない展開。年下攻めも社会人受けも二人とも憎めない愛されキャラ。しかも、人物の絵が綺麗、背景もディティールも丁寧、どのモブ的な登場人物もキャラがきちんと考えられていて皆生き生きしてる。『自惚れミイラとり』でBL界に名を馳せてる作者さんですが、本作も巧さと魅力全開です。一巻完結で満足度が高い。楽しい作品をさくっと読みたいときに、是非。
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ずっと心に残るだろう名作2022年6月4日愛するとはどうことだろう、という漠然とした哲学的な問いに少しでも興味がある人には、とても刺さると思う。ロボットと人間の恋愛を取り扱う作品は時々見かけるけれど、この作品では、アンドロイドのアイデンティティが取り分け丁寧に描かれていて、限りなく人間に近くて遠いその微妙なラインを覗き込んでいくことになる。その結果、アンドロイドに対する人間の恋だけではなく、アンドロイドの愛とは何か、というアンドロイド側の想いに寄り添うことが出来て、その稀有な感覚に心揺さぶられた。悲しさとも幸せとも違う感情で涙が溢れた。二人の関係は、高校生の百合という設定も相まって、儚くも瑞々しい。ラストもいい。この作品で提示される愛は、相手の相手なりの愛し方、生き方をを受け入れることでもあり、「分かり合う」という次元を超えた愛であり、アンドロイドであれ動物であれ人であれ物であれ、普遍的に通じるものだと思った。今やクローン人間も誕生し、アンドロイドの精度も上がり、AIの進歩も著しく、ロボット兵士の是非などの議論も現実に行われ、かつての人間のアイデンティティが変わりつつある時代。そうした現実の「進歩」の中でこそ、半ば揶揄されがちな、センチメンタルなリスペクトを個人的には失いたくないと、作品を読んで思った。
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表紙の期待値を上回る美麗な社会人BL2022年5月12日珍しくジャケ買い。表紙のイメージ通り、眉目秀麗な登場人物、細部まで綺麗で丁寧な絵、恋愛プラスアルファの物語を楽しめる作品だった。一人の表紙からは想像しづらかったけれど、実はタイトルに込められていた恋愛要素もしっかり萌えがあった。廃業寸前の仕立て屋を再興しようとする職業ドラマとしても面白く、仕立て屋ならではの上質なスーツも二人の着こなしも美しく、社会人BL好きにオススメしたい。ミステリアスなカリスマに導かれ店の再興に取り組む関係はどこか日高ショーコ先生の骨太な大河ドラマ『日に流れて橋に行く』を彷彿とさせる。でもそちらの既刊分は恋愛がほぼ排除されてるので、そういうプロットにBLも入るとこんな展開もありなんだなとエンタメ性に満ちた本作を楽しめた。展開も絵も雑に感じる部分が無い、二巻完結で充実した作品。
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友達はいなくてもファンになる2022年4月10日人付き合いは社会生活には欠かせないけれど、どうしても疲れてしまう時がある。そんな時、人に媚びず飄々と一人の世界を楽しめる人を見ると、清々しさを感じ、自分も無理せず自分らしく過ごすことを大事にしようと思える。学生の頃もそうした同級生が好きで、漫画でも「となりの関くん」とか、最近では「久住くん、空気読めてますか?」を楽しんできた。久しぶりにそれ系統の漫画を手に取って、やはり自分の波長にとても合った。湯神くんは厄介もの扱いされていて、周りに迎合しないのでそれも無理はないけれど、自分軸の倫理があって、芯を持ち利他的に動くこともできる。難はあっても、可笑しみの範囲で楽しいし、尊敬の念すら抱く時もある。湯神くんのような人、自分は魅力的だなと思う。
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異色のスピンオフ。味わい深い素敵な作品。2022年4月5日スピンオフって、本編の脇役と誰か、あるいは脇役同士っていう新しいカップルを描くのが主だと思います。でも今作は、本編の主人公と、本編でキーマンだった怪しげな男との過去の関係を描くという設定。チャレンジングな設定にゾクゾクした。本編読者としては、この二人は結ばれなかったと知ってる訳で、作者さん曰く、スピンオフだからできたという「別れを描く」極めて情緒的で文学的な作品。その二人の絡みは恋愛よりもっと濃くて熱い情や欲に満ちていて、とてもリアルだった。上手く行かないのも仕方がないし、だからといって絆も途切れることがないのも頷ける。友情や恋愛っていうカテゴリーに収まりきらない関係は実際の人間関係でしばしばあると思う。そして、情が残っていても敢えて手放すという経験のある人も多いと思う。今は別な相手を慈しんでいても、過去は過去として存在する。そのような微妙な心情や関係を描くのが上手だなぁと嘆息した。本編より続編より好きな作品。先生の最新作の長編オメガバースも、オメガバースとしては異色作ですがそこが面白い。これからも先生の作品を追いかけていきたいです。
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近代日本文学を絵巻で読むような感覚2022年3月18日明治後期の東北と東京を舞台に、青年期から大人になる七年間を、春夏秋冬のひと巡りとして描く物語。絵柄はいい意味で版画のようで、全てを描ききらずでも熱を帯びた細かな線が印象的な、この作風に合った雰囲気。高利貸しのヤクザな年上攻めと医師を目指す純粋な青年の恋。共感や倫理の次元を超えて、純粋で生々しい惹かれ合いを受け止める気持ちで見守った。背景が丁寧なだけではなく、背景と登場人物が溶け込んで、春夏秋冬が巡る中での情景として描かれているのが、絵巻のようでとても好きだった。この時代かなりの家柄でないとあのような洋館で洋風の暮らしをしておらず、水道の蛇口もまだ家庭普及率はかなり低いはずで、細部の時代考証で気になるところも時々あった。時代のリアリティーを感じるというより、明治を舞台にしたノスタルジックなフィクションとして楽しむのが良さそう。キュンを求める時というより、漫画として奥行きの深い作品をBLジャンルで読みたいときにオススメ。星4.5。
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先生の中では珍しい作風。新鮮2022年3月16日先生のファンで作者買い。いつも安定して魅力的な大人の攻めを描かれるなぁという印象があったのですが、本作はこじらせタイプの年上受けという先生にしては珍しい設定だった。内容も絵も、いつもはふんわりしつつも繊細な恋物語というイメージが強い先生の作品でしたが、今回は「付き合う」「体の関係を結ぶ」というテーマを真面目に突き詰める方向に振り切った感じ。結構焦れったいし酷いなと思う行動もあったり、それも珍しい。いい意味で型にはまっていないと言えるかも。このテーマを先生が扱うとこんな風になるんだと新鮮な驚きを持ちながら読み進めた。初めて先生を読む方にはトワイライトや僕らの群青など、穏やかな絵と共に繊細なストーリーがきらりと光る別作品を個人的には推薦したいけれど、ファンとしては読めて満足。
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稀にみる傑作。最後まで描いて欲しかった。2022年3月14日星10を星5まで減らした評価です。稀にみる傑作で、興奮して読み進めていたら急に途中下車を迫られたような惜しさが拭えない。チェーザレと銘打っているけれど大学時代のみで終わってしまい、副題の「破壊の創造者」の創造も破壊もまだ成されていない。まだまだ萌芽の段階。若くして戦死したチェーザレ、恐らく最初は最期まで描けるという構想であっただろうと思う。最後は先生も納得の終わりということがインタビューを読んでわかったけれど、それでも、導入からここまで緻密に完璧な描き方をしたがゆえに終わりまでは辿り着けないというアイロニックな未完の傑作であるように思えてならない。
ここまで口惜しい気持ちのレビューになってしまったけれど、それでもなお、世界中の方にこの作品を勧めたい。ルネッサンスのイタリアを舞台にしながら、日本を誇る漫画だと思う。個人的にはその時代の政治的な動きやキリスト教支配層内部の思惑、協会と貴族の依存と軋轢なども、かなり勉強になった。平和のためにはどんな人間が必要なのか?どんな権力が必要なのか?その人間をどう選出すべきか?現在にも通じる問題を提起している。理と知の違いなど哲学的にも深い内容に触れていて、中世から近代への過渡期らしさも感じられる。この魑魅魍魎とした価値観が渦巻くなかで生まれた、ダヴィンチやミケランジェロなどルネッサンスの芸術的な名作、そして数々の立派な建造物。イタリア旅行で、圧倒されると同時にどこか人間のおどろおどろしい業に触れるような得体の知れない怖さを感じたけれど、この漫画を読んでいるとそれが無理もない気がした。
絵も美しく、時代考証に基づいた緻密な画は崇高なほど。チェーザレも、オリジナルなキャラのアンジェロも魅力的。ドラマ性も高くて徹夜してでも読まずにはいられないほど惹き付けられました。 -
これは優しさにホロリと来ます2022年2月21日一作目は幸せな社会人BLだなぁ、という位の印象でしたが、続編の今作は優しい切なさが満載でした。この続編と、最終編を読むために是非3冊まとめ買いをオススメします。一作目で結ばれて、二作目でちょっとした葛藤も描かれて、というある意味BLの王道。そこをどう描くのかな、というのがいつも楽しみで続編を読むのですが、今作は優しさ、思いやり、心の綺麗さに打たれました。無私の心で相手を思いやるがゆえに流れる涙はこんなに美しいんだな、と。作者さんのお人柄も偲ばれます。こんな魅力的な二人だったんだなぁ、と改めて気づかせて貰えた素敵な社会人BLでした。
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じんわりと泣けるシリーズ。心の浄化に最適2022年2月17日このシリーズは続編、最終編と読み進めるほど胸を打つエピソードが待っています。第一作はまだまだ序章で、一番ほのぼのしている。いい意味で、フィクションだから味わえる、理解と慈愛に満ちた会社で働く優しいキャラクターたち。可愛いレベルのツンデレ上司受けと懐深く素直な新米社員攻めの微笑ましい恋。上司が憧れる社長の過去エピソードは少し切なく、物語に奥行きを与えてくれる。絵も可愛い。この一巻だけだと、少々印象は薄く感じるかもしれないけれど、このカップルの優しさが好きな方は是非シリーズトータルで読んでほしい。心が洗われます。
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萌えもありつつクールな作品。さすがです2022年2月15日作者買いしたくなる先生の魅力がこの作品にも詰まってました。表紙の主人公は仕事も大学もない本人曰く「底辺」を貪る男の子。相手は冴えない社会人。実はハイスペックだったりいい人だったり、というギャップもない。共感や応援を得にくい、どこか突き放したようなキャラ設定で物語を作っていく作者さんが格好いいなと思った。そんな二人でありながら、微妙な関係のままジリジリと近づいて絡み合っていくいく様子がリアルで萌えた。物語展開は暗示的で驚きは少なかったけれど、ハイライトからラストまで、展開を畳んでいく過程も興味深く読んだ。欲を言えば、作者さんなら巻数増やしてもっと後半の内容を掘り下げても凄かっただろうな、読みたかったなと思う。それでも、キャラクターの成長が心に響いて読後感は良かった。先生の作品で見られるキャラクターの成長は、単に愛のお蔭とか成功体験ゆえじゃない。不運や不幸がきっかけでもない。強烈な内省が促されるような身を抉る経験を糧に、自ら這い上がるような成長。そこでは冴えないキャラもクズキャラも応援できるキャラに変わり、物語を読み終えた時には彼らに幸あれと願う気分になっている。「マイリトルインフェルノ」の方が予想外な事が多く個人的には好きだけれど、こちらも作者さんへの敬意が更に高まる作品だった。物語重視派にオススメ。星4.5。
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この作品から宝塚や劇団に興味を持った2022年2月14日美しい物語だった。もっと何巻も、ゆっくり物語を追っていたいような中身の濃い群像劇。何年にも渡るドラマをぎゅっと凝縮した、上質なハイライトを見せて貰えたような感じ。この漫画を手に取る方は宝塚や劇団好きな方も多いかと思いますが、私のように逆にこれまで知らなかった方にもお勧めしたい。厳しくも華やかな遠くの世界として眺めていた宝塚のような歌劇団が、どんな価値観で成り立っているのか、その中で過ごす子供達がそれぞれどんな気持ちで毎日一生懸命精進しているのか、その一端を垣間見られたような気がして、改めてもっと知りたくなった。葛藤と向き合いながら自分を見つめて進んでいく、キャラクター皆それぞれが尊い。ブロマンスのような友情も美しい。こうした狭い実力社会の中では、実際はもっとダークな部分もあるかもしれないが、この漫画に出てくるような純粋で高貴な側面もまた確実にあるのだろうと感じた。吉祥寺をよく知る人には色々背景の場所も分かり懐かしいと思う。この作品をきっかけに、いつか少年歌劇団や少女歌劇団の舞台を見たいと思いました。星4.5。
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全作読みたくなるような作家さん2022年2月13日朝田ねむい先生で初めて読んだ作品。読み終わると共に先生の作品は全て読んでみたいと思えた、そんな漫画だった。恋愛プラスアルファを求める物語重視派の方々にオススメしたい、先生の豪快なストーリーテラーっぷりが拝める作品。BLとしても、絶対に交わることのなさそうな世界線で生きてる二人が交差して絡んでいく様がとてつもなく面白かった。二人、いや、三人の関係上の甘さも残酷さもとてもリアルで、私にはかなり俯瞰的な目線で描かれているように思え、それがとても良かった。タイトルもこれ以上ないくらい素晴らしい。ちょっとだけアメコミみたいな絵柄も印象に残り癖になる。追いかけたい先生がまた増えたことが嬉しい読書でした。
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イケオジ攻めが好きな方にオススメ2022年2月8日ジェントルマンのルックブック的ショット満載の本作。イケオジメインのBLはそこまで多いわけではないので、ハマる人にはハマりそう。穏やかな作風で人気高いのも頷けました。スリーピーススーツとかビリヤードの格好とか、コテコテでくすりと笑えてしまうほど、絵に描いたような紳士。そして時々お茶目なところも。何故か、パンツネタが随所随所で推されていた。ほぼ初対面の相手に汚したパンツを洗ってもらったり、洗濯物を毎日わざと落としたり、現実の映像を想像しながら読むと苦笑してしまうところも。あくまでファンタジーとして楽しめる人、実はムッツリおじさんでもそのギャップが逆に可愛く思える方、イケオジ攻めが好きな方々にオススメです。優しい二人の温かい恋愛を見守ることができます。星3.5。
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ハリウッド位のスケールで実写化して欲しい2022年2月6日田村由実先生の「BASARA」に夢中になった学生時代。こんな大作はさすがにもう期待できないだろうと思っていたら、また16年もかけて新しい壮大なサバイバルファンタジーを完成させたなんて、凄すぎる。たった一人でSTAR WARSを二本書くくらいの凄さ。最新作のドラマ化も話題で、少女漫画界を超え先生は世に広く知られることとなり、感無量。きっと田村先生の名は日本漫画史にずっと残っていくだろうと思う。
本作は、BASARAよりも、更にダークで業の深い一面がある。それがまた魅力でもある。とにかく個性の際立つ多くの登場人物の個人的なドラマと、この世界をどう受け入れてどう生き抜くかという緊張感みなぎるドラマに釘付けになった(花が小さくなって動物と戯れる巻だけは蛇足としても長く焦れったかった)。7seedsの終盤から「ミステリ~」に至り、説法のような雰囲気が漂い始めるのは個人的には好かない。作品が説教臭くなると矛盾も目立ち、それが自分には読んでてノイズとなる。それでも本作はBASARAと双璧を成す大作。全員のこれからの無事を今も願わずにはいられないくらい、キャラクターたちの姿がリアルに心に残る。 -
最初から最後までずっと胸が締め付けられる2022年1月31日素晴らしい、という言葉では言い表せない、凄みを感じる作品でした。どんだけの熱量があればこれだけの作品を生み出せるんだろう。漫画の底力を思い知った。羨望、見栄と尊敬、剥き出しの好意や勇気、こうした繊細な感情が、圧倒的に少ない台詞と、圧倒的な画力+演出でありありと心に響いてくる前半。二人の関係変化に緊張しつつ、同時に作者の才能に衝撃を受けながら読んだので、二重に胸が締め付けられっぱなしだった。中盤から後半にかけては、更に思いもよらない展開で、物語だけではなく作者の現実世界への祈りや想いが溢れ出ているような気がした。その人間味深いところも、私にはぐっときた。無限に書き込まれているような緻密かつダイナミックな背景だけでも星5にしたいくらいだけれど、それは魅力の一部に過ぎない。背景+人物の表情、動き、コマ割、全てトータルで魅せる力が凄い。どんなベタなプロットでもこの作者さんが書くのなら、どんな風に描くか見てみたくなる。とはいえ、先生の他の作品は、ベタどころか突き抜けてる、グロいファンタジーなどもありますが。そちらの才能も凄いですが、直球で読みきりのこの作品、漫画の中でも特に演出方法に興味がある方、絵で語る作品が好きな多くの方にお勧めしたい。
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少女漫画らしからぬ闇と毒が良かった2022年1月21日以前ちらっと試し読みした時から、珍しく頭の隅に残っていた作品で、一巻まるまる無料という機会に既刊分を読んでみた。先生に片思いする表向き優等生の少女が、裏では彼女に恋する無邪気なクラスメートと体だけの関係を繰り返し・・・というストーリーは建前に過ぎない、というプロットが良い。男の子の抱える傷の深い闇と毒、彼女との本当の関係性等、とてもダークな物語が背後に控えている。けれどすべてが罠であり欺瞞かと言えば、恐らくそうではないところも魅力的。マウントを取っていたはずの彼女の気づきと成長や、陥れるつもりで近づく中で本当に惹かれていそうな彼の表情も描かれる。私には、利用するつもりでお互い救い合っていたような関係に思える。最終的には綺麗に着地しそうな気もしつつ、どうなるか、ラストに向けてのストーリーが楽しみ。この作品のように、純粋な恋愛ではなくややこしいけれどぐっと惹きつける設定はBLではよく見るけれど、少女漫画でも描かれているというのは新鮮な驚き。
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じゃのめ先生らしさもあるけれど2022年1月15日大好きなじゃのめ先生らしさは全開。スピード感に溢れてテンポもよく、台詞と場面とモノローグに敢えてズレを持たせ、ワンセットで演出する巧さ。冴えないキャラも色気あるキャラも魅力的で、リアルを超えて雰囲気たっぷりな絵も見所。何かに熱いところもいい。でも、そうした極上エンタメな作風と、今回扱っているトラウマはうまくマッチングしづらい気がした。そんなに軽くあしらっていい話じゃない、と思ってしまうと、キャラにも違和感が出てきてしまうので、そこが残念。先生の作品を完読したい人にはオススメできますが、初めて読むっていう方には、他の傑作群(黄昏シリーズ等)をまずオススメしたい。
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美しい物語。ファンタジーだけどリアル2022年1月11日歳を重ねるにつれ、ファンタジーにはあまり入り込めないようになり遠ざかっていたのですが、綺麗な表紙とレビューの安定した高評価に惹かれて購入。全ページひたすら美形の二人。見目麗しく心も綺麗で応援せずにはいられないキャラクター。前近代の異国情緒を感じさせる背景やディティールの美しさが、二人の麗しさを更に引き立てる。ファンタジーの世界観を少しずつ明かしていくストーリーは、ミステリー要素やダークな伏線も散りばめられ、かなり引き込まれる。2巻になってゆるっと和む描写も増えたので、癒しを求める人にも応えるかも。構成も世界観も緻密なのでファンタジーとはいえ、リアリティーたっぷり。心情重視派にもストーリー重視派にもオススメ。昔、花とゆめコミックスからよく出ていた、ほんのりとダークで美しいファンタジー大作に魅せられていた気持ちを久しぶりに思い出させてくれた。
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芸人Youtubeのトークみたい。伏線回収は謎2022年1月1日芸人のYoutubeチャンネルで、特にトーク系が好きな人にはかなりオススメ。ツッコミとボケの会話が思わず笑えるし、また博識で毒もあってキレキレの作家さんだなぁと感服。どの巻に戻ってもいつでも面白く読めるので、持っていて重宝する。自分も高校時代川で過ごしていたタイプなので、懐かしさもあった。手書き感の強い書き込みが多い絵も好み。ただ他の人が感心されてる最終巻の伏線回収は、個人的には疑問。確かに不穏な空気が第一巻から物語に深みを添えてたけど、ウツミの頭の良さと、瀬戸との交流を経て、なおその選択するかなと、強引で狙いすぎた不自然な伏線回収だったように感じてしまった。穏やかに収束していくラストはすごく好きだった。トータルで☆5。
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絵津鼓先生の傑作。☆5以上つけたい2022年1月1日Super Naturalのオシャレかつ深いBLに触れて絵津鼓先生を全追いしてきましたが、ギア一つ違うように思えてしまうくらい、今作は傑作だなと感動して読み終えました。今年初読みにして良かった。このテーマを掘り下げて描いてくださった先生にも感謝したい。シリアスで、単純に恋愛とカテゴライズできない関わりを、心が痛くも優しく、色気をもって、洗練された表現力で描くのは絵津鼓先生ならでは。キャラのミニマルな綺麗さやオシャレ感が今作品ではいい意味で目立たず、書き込みやコマ数が増して世界観に厚みが出た分、少ないモノローグと相まって、余情で語る抑えた演出がさらに研ぎ澄まされたような。
先生の作品にはしばしば、絶望に裏打ちされたような明るさを持った危ういキャラクターが登場するのですが、今回の木内さんは更にそれが凝縮されていた。優しく感性が鋭く、人当たりがいいのに掴めないし届かない。大人しいナカジョー君の懐の深さ、忍耐強さ、優しさ、謙虚さ、純粋さが穏やかな光だった。たとえ完璧じゃなくたって、自分もこうありたいと思える魅力的な人。潔い本編のラストも良かったし、描き下ろしもあって良かった。全てが解決された訳ではないかもしれないけれど、そのリアルさも残しつつ、この二人の人生にとってはこれが唯一の解だろうとという答え。拍手を送りたい。絵津鼓先生には、これからも心身ともに労りつつ、魅力的な作品を届けていただけたら嬉しいです。 -
優しい三角関係2022年1月1日王道のBL展開を丁寧な心情描写と綺麗な絵で綴る印象があるitz先生。今作は、仲良かった同級生への秘めた恋を忘れられない大学生が大人な社会人と出会い、恋を失うことができるのか、隠れた三角関係の行方を追っていく、という少し複雑めの設定。その分、展開に興味津々でした。スピンオフですが単独でも読めます。三角関係の話は誰かが傷つくから普段あまり好まないのですが、この話は登場人物誰もが優しくて、itz先生らしく丁寧に綴られるので、穏やかな心地で読めます。☆3.5。
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真っ直ぐな男子校生に救われる2022年1月1日王道の先生×生徒BLや、真っ直ぐでピュアな年下攻めを読みたい方にオススメ。itz先生の作品はいつも心情描写が丁寧で、人物の絵が美しいです。本作は特に、傷ついた先生に惚れていく男子高生が良かった。素直で優しく、人当たりの良いこの男子高生に恋された先生は幸せ者だと思う。彼の魅力の分☆一つプラス。幸せのお裾分けを読者も貰うことができる作品だと思います。
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コントラストな二人の恋が優しく綴られる2021年12月31日幼馴染でもなく友達でもなく、共通点も接点も少ない、同級生というだけの繋がりしかない二人。何故かすれ違い様に目が合って、ある日とうとう階段先で二人きりの出会いを迎えて、、、二人の間に流れる優しい空気感が、優しくて綺麗な絵とぴったり。スポーツ好きで華やかな人気者と影ある黒髪優等生という綺麗なコントラストも相まって、友人という関係を軽々超えていきそうでいかないラインがいい。陽キャのモテは漫画でよく見るけど、この作品の陽キャは底抜けに優しくて懐深くて純粋なキャラクターで魅力的。優等生の方は思ったよりこじらせかまってちゃんだったけど、何故そうかは丁寧に語られる。ストーリーは王道。頁数多く読み応えたっぷりで、綺麗で優しいBLを読みたい方、心情を丁寧に綴るピュアな作品が好みな方にオススメ。星3.5。
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コメディタッチの軽い作品の中で巧さが光る2021年12月29日軽くコメディタッチの先輩×後輩大学生BL。ラブコメは普段あまり読まないジャンルだけど、さすが日乃先生、何を描いても巧くて面白くてお気に入りの作品になった。サークル仲間が皆いい味出していて人間観察同好会という"クソ飲みサークル"(by 塩見)に入りたくなる。展開もスピーディーで飽きない。不遜な余裕を醸し出しながら実は繊細に人の心の機微を把握していて、人懐っこさを時おり垣間見せる、攻めの後輩、塩見のキャラクターは個人的に凄く好き。塩見の分も星プラス。本編終わってからの、バイトの先輩を通じた塩見目線の話も、一捻り入れた設定が上手だなと思った。格好いい人もダサい人も歪んだ人も皆魅力的に描けて、ストーリーの演出にセンスが光る日乃先生の作品は全部読破したくなります。
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絶対ハズレのない作者買いができる作者さん2021年12月29日視線の向かう先というモチーフだけで、ここまで説得力をもって心の動きや想いの入れ違いを演出できる技術が、やはりこの作家さんならではの巧さだと敬服しながら読みました。絵が上手なだけではなく、背景や小物使い、敢えて言わない台詞とか、緩急あるモノローグとか、不意打ちの行動とか、トータルで演出されているから出来るんだろうなと思わずにいられません。日乃チハヤ先生は、うだつの上がらないタイプのキャラを可愛く生かすのも上手ですが、今回の二人は見た目が綺麗なカップル。人物の書き分けも上手だなと思います。表紙から、純真受けを想像している方には意外な展開かもしれないけど面白いですよ。「先生×生徒」が好きな人はもちろん、センスが光る作品を読みたい方にオススメです。表題作は短くてもっと読んでいたかったけれど、短編も巧い作品で楽しい一冊でした。
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スイートハート・トリガー【単行本版(電子限定描き下ろし付)】
愛がなくても離れられない二人が気になる2021年11月26日シリーズ一作目は、こなれた漫画というよりは粗さが目立つけど、勢いがあって引き込まれた。個人的には、子供を持つことに関する葛藤に切り込む三作目が読みたくてこのシリーズを手に取った。「愛」の少ないカップルが良くも悪くも興味深い。共依存的な執着や、互いに対極を成すナルシシズムはビシビシ感じるけど、相手への慈しみや尊重の感覚が薄く思えた。メンヘラって今や美的にも使われる言葉だけれど、今作の受けは痛々しく専門医に診てもらうべきレベル。鈍感な攻めはミステリアスで格好いいけど、相手より、相手の自分への執着に惚れ込んでるような印象。だから、二人の欲情シーンが多いのにイチャイチャ感よりヒリヒリする。そういう複雑な刺激に興味がある人にはオススメできる。今のままでは一緒にいても幸せにはなれそうもない二人が、どう成長して、愛を見つけて育んでいけるのか、シリーズ通して見守りたい。外国が舞台で言葉遣いも少し翻訳っぽく、いい意味で感情移入し過ぎずに読めた。☆3.5 -
ワンクールドラマを観終えたような充実感2021年11月9日先生のファンですが、本作は格別に好き。心の揺れ動きや変化が鮮やかに描写されてたと思います。結ばれるまでをここまで丁寧に描く作品はBLとしては珍しい。背景や取り巻く環境の描写もいつにも増して丁寧で、小さなライブハウスと、それを支える裏方の方々の空気感がありありと味わえました。
いつもながら、品があって余裕ある大人の攻めが魅力的なのですが、今回はさらに言葉少なで包容力がありながらも慎重なタイプ。それが単に口下手なんじゃなくて、彼の繊細な性格に裏打ちされているっていうのがまた良かった。繊細な絵柄にもマッチしている。最初は少しウザく絡んでしまう受けの成長と真っ直ぐな想いも、だんだん応援したくなる。最近は攻めと受けの視点が交互に代わる作品が多くてわかりやすいけれど、本作に限っては、ほぼ受け目線で進むのが、攻めのわからなさへの焦れったさを一読者にもいい意味で煽ってくれた。
二巻分あるけれど、当て馬を登場させるわけでも仕事ネタが増えるわけでもない。物語の幅は広がっても、あくまでも二人の心情からスポットを外さずにドラマチックな展開が描かれていて、充実感たっぷりの二巻完結。 -
いい作品見つけた☆作者さん追います2021年11月6日バレエをご自身でも本格的に嗜んでいらっしゃっただけあって、作者さんのバレエへの造詣の深さが内容と肉体美の表現に行き渡っている。例えば、告白シーン、ここで相手に惹かれるっていうシーンしかり。あらすじ自体はそこまで珍しいものではないかもしれないけれど、そういうディテールが素晴らしい。普段スポーツ漫画やバレエ漫画を読みだしても投げてしまうことが多いのですが、この作品と京山あつき先生の傑作、聞こえない声シリーズはハマりました。
カップルも良い。カリスマ天才受けとワンコ系凡人攻めっていう組み合わせの妙が面白い。凡人とはいえ、攻めには天才が羨む身長と身体や秘めた才能があるのですが。ガタイへの羨望という、興味本位で表面的な欲情から、段々と、これから才能が開花しそうな者の努力と真っ直ぐな恋心に惹かれていく過程はとても自然だった。続きも楽しみですが一巻としてのまとまりも良く、☆4.5。 -
作者さんの個性を感じたけど描き方は軽い2021年11月6日死んだ妹の婚約者と恋人になる、という設定はとても重たくて難しく、日本近代文学が好みそうなテーマだけど、その心情をどう漫画で掘り下げられるか楽しみに読んだ。中身はやや上滑りで深みなく感じてしまったけれど、作風には唯一無二の個性をビシビシと感じた。随時ホラー的な絵柄なのは少し違和感。又、モノローグや行動で当人の愛や辛さは十分語られるけれど、逆にありきたりな言葉や行動に頼りすぎちゃってるような、それが納得できるほどのリアリティー溢れる恋心や妹への愛、辛さが自分には感じられなかったのが残念。あまり深みなしに大胆で突飛な行動や台詞、設定が飛び交うエキセントリックな作風は、ヤクザの家のJKとDKを主人公にしたスピード感あふれる次作のエンタメ作品にはピッタリ合っていると思う。作者さんの溢れ出る個性に敬意を評して☆プラス。
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新たな出会いが光へと導いてくれるお話2021年10月18日孤独な共依存から、新たな出会いによって脱け出せるか?と書くとかなり重たい話に聞こえてしまうかもしれないけれど、そんなテーマもありつつも、物語の軸は大学の映画サークルを舞台とした素敵なBLでした。今は留年続きとはいえ、才能あふれ人格者でもある攻めはスパダリだと思う。優しくて包容力があり、適度に踏み込んでくれる。主人公が彼に出会えて、映画サークルという新たな世界に出会えて、本当に良かったと思いました。クズの当て馬のその後の恋に興味ある方はぜひスピンオフも。個人的には内容はこちらの方が好きだったけれど、スピンオフはさらに画力がアップして綺麗でした。
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過ちを犯した人は幸せになっていいのか2021年10月18日前作の当て馬のスピンオフ。まず、絵がとても美しい。背景まで丁寧に描かれ、映画に興味ある作者さんというのが納得。テーマは、前作におけるどう考えても共感を得にくいタイプのクズが主人公。加害者を主人公にするというのは、応援しづらく、それだけ作家にとってはチャレンジングだと思う。でも自分はそこに正面から踏み込む作品が好みなので良かった。枕営業から恋人に?というがっつりBLが軸だけど、過ちを犯した人は幸せになっていいのか、人はどう変われるのか、というテーマを掘り下げていたところが興味深かった。ところどころ、うーんそんなうまくいかないよな、被害者がもっとトラウマ抱えていたらこの人たちどうするの?と思うところもあって、展開は☆3.5。でも、それなりに罪には向き合えて、BLとしても内容が濃く、抜群の絵の美しさも含め、トータル☆4。
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作者買い。やはり大人の攻めが素敵2021年10月5日最近アクの強い作品を食い入るように読んでいましたが、久しぶりに透明感のある綺麗な作品を読みたいなと感じ、思い出したのが秋平しろ先生の『青とジェント』。包容力のある大人の攻めが魅力的で、他の作品も温かく優しいかなと思い手に取りました。先生と生徒で、あまり描写はありませんが先生が攻め。悩む姿にすらどこか余裕を感じる成熟した大人の男性と、純粋な男子高校生。騙す、ほだす、など心の暗部を抉る関係ではなく、相手の心の綺麗な部分にお互い自然と惹かれあっていく中で切なさが生じるような純粋な恋愛。心洗われました。先生×生徒ならもう少し難しさもあってしかるべきとか、そううまく事は運ばないだろうな、という部分もあるにはあるけれど、そこを掘りすぎると作品全体がワントーン暗くなってしまうからこれでいいのかな、と。落ち着いて紡がれるストーリーが、繊細で穏やかな絵柄にも合っています。
今まで、良心的で魅力的なキャラが多くドラマとしても面白い穏やかなBLを読みたい時には鈴丸みんた先生を読んでいましたが、秋平しろ先生の作品も揃えていきたいと思いました。 -
BLかつBL以上のドラマに痺れた2021年10月2日あらすじ紹介にある、姉の婚約者が気になって...というプロットを凌駕する、いい意味で予想外に深みのある展開で痺れました。普段あまり☆5をつけられないのですがこの作品は☆5以上。人物も綺麗、背景も丁寧、アングルや手元など含め何をどう映すかで映像作品のように絵がストーリーを語ってくれるのも巧いと思いました。「ケモノ」の人物設定も深く感情移入しやすい。ネタバレしたくないので抽象的になりますが、何より、二人の心がどうすれ違いどう交わり合うのか、その真っ直ぐでヒリヒリした関係変化の過程に惹き付けられました。続編もぜひお願いしたいですが、完結作品としての完成度も高く、ストーリー重視派、心情重視派共にオススメしたい、充実した一作です。
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陽キャグループに初めて惹かれた2021年9月4日超一軍のモテメン×地味メンのピュアなDKカップル、とまとめるには惜しいほど、登場人物それぞれの存在や会話がリアルに刺さる、群像劇としての魅力溢れる作品。一軍とは言っても、よくあるハイスペイケメン集団じゃない。女癖が悪かったり授業サボったり、どこか爛れてて気だるくて、下らない話で盛り上がってキャーキャー言われて調子乗っているかに見える陽キャ集団。そのリア充軍団の生態観察をしてるかのように、リアリティーある会話のチョイスが巧い。緩い結束でつるんで下らないことばかりしていても、その中に、大人びた諦観や今を享受しようとする強さや優しさがあって、現実では苦手な陽キャ集団に本作で初めて惹かれた。作者さんがかつてそうした集団に居たのかなと思わずにいられないのに、受けが属すフツーの人達の、リア充への憧れと気後れが交錯する感情を描くのも巧い。多分、客観的に俯瞰で物事を見られる、観察眼の鋭い作者さんではないかと。もちろん、メインカップルを追っていても、切り取る瞬間やモノローグでぐっとくる。本作と繋がる次作もオススメ。作者さん曰く、偏差値低い人々を書いてるらしいけど、作品の内容自体にはすごく頭の切れを感じるので、そのギャップも魅力的。
値段の高さ、pixivとの内容重複、絵が若干拙い等で満点にはしなかったけれど、それを凌駕する、読んで良かったと思える作品。 -
萌え要素が盛りだくさん2021年8月9日いつもレビューを書くときはどんな嗜好の人にオススメしたいか考えるのですが、今回は二巻それぞれ趣が異なり、その項目が盛りだくさん。一巻では、大学生受け×社会人攻めで、体の関係から大学生の初恋が始まる、穏やかで切なくも幸せな作品を楽しめる。大人な社会人に溺れていく感覚が丁寧に綴られます。本編後にミステリアスな攻めからの視点の章もあって良かった。二巻は3年後が舞台、年の差社会人カップルの甘いBLが堪能できます。基本穏やかでスパダリの攻めがどんどん受けにはまっていく糖度高めな展開。絵もストーリーも丁寧で萌えもたっぷり、穏やかで幸せな作品を読みたいときに、オススメです。
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BLと丁寧で良質なドラマが折り重なる2021年8月1日明治の文明開化の時代、片田舎の町に電気を灯そうとする発電所のストーリーが、単なるBLの舞台という位置付けを超えドラマチックで良かった。主従の二人が、徐々にその関係を超えて離れられない存在になっていく過程と、何もないところから皆で協力しあい町に明かりがともる過程が見事にマッチして、穏やかながらとてもロマンチックだった。黒髪受けの主人と、切ない時間を過ごしながら主人を真っ直ぐ慕う攻め、どちらも心優しく清く、時代背景もあり言葉遣いが丁寧で、カップルとして美しい。ストーリー重視派、心情重視派、穏やかで優しいBLが読みたい方にオススメ。時代劇苦手な人も大丈夫なはず。
恋愛物語として考えると、展開や台詞に意外性はなく、そこで星4と迷いましたが、これだけ絵もストーリーも気持ちも丁寧に美しく描かれていることに敬意を表し、やはり満点にしました。発電所見学をきっかけにここまで充実した一本の作品が作れるって、ため息出るくらい素晴らしいです。 -
こんなに弟を振り回す必要あったのか?2021年7月21日敢えて残酷なことを平気でやってのけながら愛情を繋いでいこうとする珍しい禁断の設定を、スリリングで切なく、嫌悪感を極力少なくして描き切ったのはすごいと思います。それにしても、魅力は分かるけれども、とことん残酷なお姉さん。自分の中では行動の合理性がとれているそうだけれども、不必要に弟や周りを振り回した気がする。ここまでしなくても、二人で一緒にいる方法は探れたような。嗜虐心が見え隠れし、弟が可哀想になりながら読んだ。でも、可哀想な立場にいる弟は、恋をして強くなるタイプで、どんどん男を上げていきます。この作者さんは空気感で色気を出すのがとても上手で、その静かながら凄みのきいた雰囲気が好きな人ならはまりそう。もう少し人物の書き分けがあればもっと美女設定が引き立つと思う。時々、ページの隅の作者さんによる補足で、先がネタバレしているのは残念だった。これから読む人には、完読してから戻って補足を読まれることを推奨します。
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退廃的で美しい芸術作品2021年7月21日先生の同級生シリーズの大ファンです。重たい内容だと伺っていたのですが、満を持して読み始めました。一気に読めてしまいますね。明るくなりたい人にはオススメしません。暗い気分の時、鬱々たる心持ちに寄り添うBLを読みたい時にはうってつけかも。単なる闇ではなく、芸術的に美しく完成度の高い作品なので、暗い気持ちのままでも苦い後味は感じませんでした。また、禁断の関係、歪な関係に終始しているものの、二人の愛自体は明日美子先生らしい純粋なもので、高貴な佇まいさえあります。良くも悪くも、テーマの重さと比べ、人の奥底に潜む邪気をリアルに炙り出すよりはアーティスティックな志向に傾いている分、心が辛くならずに読み終えることができました。力強い作品であることは間違いありません。☆4.5。
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性的マイノリティと偏見にフォーカス2021年7月7日作者買い。ゲイ、恋愛対象は異性だけど性的対象は同性、女装など、性的マイノリティを広く扱い、彼らに対する理解や偏見を取り上げる、社会的メッセージ性の強い作品でした。個人的には、タブーな関係の中に光を見いだす『メトロ』が大好きで、本作の作風は意外でした。最新作はオメガバース、と作風の振れ幅が広いのは凄いですね。ただ、本作のテーマ設定は好感が持てたものの、ストーリーとしては面白いと思えませんでした。一番大きな違和感は、主人公が「恋する相手は女性だけど」と言っている割に、全然恋人に恋していないこと。もう少しその恋心が描かれていれば「恋愛対象と性的対象のズレ」という設定に納得いったものの、ゲイに気付かなかった人にしか見えないので、本人よりも周りが振り回されているように感じてしまう。キャラやストーリーよりも、テーマ先行型の作品になってしまっているようで、少し残念だった。でも、幅広く興味深い設定で描かれる先生の作品はこれからも追っていきたいです。
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忘れられない話になりそう。2021年7月3日BLを含んだ三角関係の話。冒頭から三回忌の話が出てくるので凪子の死はネタバレに入らないとして書きます。三角関係の一人が死ぬ話は、どんな展開でも、私にとっては、ハッピーエンドにも、メリバにもなりません。凪子が望んだ未来になったとしても、凪子の未来が存在しないことは、それだけ重たくて。正直、読後感は決して良くなかった。でも、難しい三角関係が、三者の視点から丁寧に描かれるので、引き込まれた。どうしてこんな行動とったんだろう、と納得できないままページをめくっても、後で、だからかと気づかされる。作者さんによって描かれる、自分の恋心と友人への思いやりとの折り合いのつけ方が、各登場人物それぞれ深い。ストーリー重視派にも心理重視派にもオススメ。ラストは若干軽く感じたけれど、難しいテーマへの真摯な取り組みと丁寧な描写に敬意を表し、☆5。絵も丁寧。
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4コマで奥行きある愛情を描く恐るべき才能2021年7月1日才能には文句なしで☆5。4コマ或いは8コマで綴られる、という設定にも関わらず、というかその設定だからこそなのか、物語があるようでないような日常の中で、着実に育まれていく二人の温かい愛情の形が存分に伝わります。絵も背景まで丁寧に書き込まれ雑さがないので、季節感も感じやすく、二人が日常と愛情を丁寧に紡いでいく様子が愛おしくなりますね。更に凄いと思ったのは、単に甘々な日々を楽しみましょうという漫画ではなく、思春期だからこその危うい自信と不安感が丁寧に描かれることで、愛おしさに儚さも添えているところです。作者さんの名作『オールドファッションカップケーキ』とは全く異なる作風でしたが、作者さんの才能に驚きの感嘆がありました。個人的には、二人の馴れ初めも描かれていたら、物語としてももっと楽しめただろう、と思えたので、☆4.5。
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きっと誰のことも好きじゃない2021年6月19日甘い展開は殆どないので、読む人を選びそうな気がします。明るくなりたい時にはオススメしません。でも、カップルの中での「すれ違い」に悩んだり「なんか違う」と感じていたり、お互い理解しあったり受け入れ合ったりするっていうのはどういう意味なんだろう、と考えている人には、刺さる内容だと思います。「すれ違い」を描く漫画は多々あれど、大体、遠距離などの外的要因が多く、本作のように自分自身の性格と態度が問題だ、という点を深く掘り下げる作品は珍しいので興味深く読みました。この気付きから好転していくとしたら、各登場人物がどう変わっていけるかに尽きるので、大人の成長物語としても興味深い。難を言うならば、モノローグみたいな台詞が多く、その多くが自分語りか社会派の意見で、少しくどい。キャラがそれぞれ違うようでいて、全員この自分語りをするのはリアリティーに欠ける。結局は「誰のことも好きじゃない自分が可愛い人々の物語」に見えてしまうのは残念。それでもこうした内容を描くのはチャレンジングで、それぞれの人格の再構築を興味深く見守った。
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作品ごとにガラリと内容が変わるのも魅力2021年5月19日先生のファンです。どの頁を額にいれて飾ってもサマになるような、想像力溢れる線で画面一杯に細かく描き込まれる絵。個性豊かで、かつ、温かな心をもったキャラクターたちが紡ぐストーリー。私の中では、じっくりと穏やかな良作を読みたい時にうってつけの漫画家さんという印象でした。本作を読んで、更に、BLという大枠のなかでも作品ごとにテーマどころかジャンルをも飛び越えるような振れ幅の広さをお持ちであることも確信し、いつまでも先生の作品を追っていきたくなりました。
元々ガイドブックにあまり興味がない自分には他作品の方がはまりはしたものの、この御時世、世界を旅する漫画にささる人は多いんじゃないかなと思います。付き合ってるところから始まって、でも二人の抱えている問題は決して軽くはなさそうで、読むうちに、過去が少しずつ明かされていくという構成も面白いです。この旅が、二人にとって救済となりますように。 -
先生のファンにオススメ。☆3.52021年5月16日作者買いです。個人的には、大好きな映画部シリーズと比べると評価が下がりますが、先生の描く社会人BLとして楽しみました。ヤクザの息子とラーメン屋さんで働く元同級生同士のお話。高校生を扱ったシリーズと比べて、本作は結構過激なシーンも多い。
じゃのめ先生は群像劇も上手なこともあって、人物像が作品ごとに固定されていないのも魅力的ですね。また、いつもテンポよく話が展開されスピード感があるのに、あらすじを読んでるみたいな感じではなくきちんとリアルな心情が描き出されているところが好きです。絵も安定した巧さ。基本、愛情深くて性格いい人が多いので、安心して佳作を楽しみたい時に読みたいです。 -
無料にしてはお得感満載2021年5月16日人気作のお試し無料版。この中に三組のカップルのお話の始まりが全部入っていて読み応えたっぷり。私の中では本編は☆4ですが無料版のこちらはお得感も含めて☆5です。本編は長い連載なので、手を出そうかどうか迷っている人にはまず迷わずこちらを読んで頂きたいです。この中のどれかのカップルの行方が気になったら本編も楽しめるんじゃないかと。逆に、カーストゲームっていう設定の世界観についていけなかったり、日常的な暴力に嫌気がさしたら、この無料版だけでも十分かと思います。
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古風な画、説明の少ない作風にはまった2021年5月4日好き嫌い分かれるかもしれませんが、唯一無二の忘れられない作品です。複数刊ありますが、前作の続き。その前作は一巻のみなので、気になった方はまずそちらの購入をオススメします。昭和初期という時代設定ならではの薄暗さ、後ろめたさや妙な青臭さの入り交じった様々なエロス、説明を極力省いた語り口が、手書きならではの古風な画と相性よく、印象に残るシリーズでした。二つのカップルとも、キュンとか萌えよりも、もっと陰があり、もっと欲望に忠実な関係性で、それでいて愛が存在しているところが良かった。分かりやすい物語が多い中で、読み手に物語を紡がせるところ、現代の価値観では受け入れられないものを描き出すところ、独特の画風を徹底させているところなど、大衆作品でありながら文芸作品のような芯も感じ、作者さんに尊敬の念を抱きながら読みました。完結にかなり年月を要したそうですが、まとめ読みできて良かったです。
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初出2013年からの時代の変化を感じる2021年4月17日ホラー漫画や少年漫画のような絵柄に最初怖気づいたけれど、中身は真面目なLGBTのお話だった。ゲイに対する周囲の受け止め方、言葉遣い等に、かなり前の漫画かと思って読み進めたら、2013年発行とは、ここ10年以内になんと世の中の空気が変わったことか。とはいえ、表立って口にすることこそ減ったかもしれないけれど、隠れた偏見や、実質的な生きづらさは今もなお存在している。そう考えると、真面目な問題提起としての作品の価値は高いものだと思った。LGBT当事者としての生きづらさを抱えながら生きる高校生の痛々しさやひたむきさ、その周りの人たちの多様な価値観が剥き出しに表現されている作品。その真摯なメッセージ性を尊敬し、☆4。漫画としては、ドラマ性が強く飽きずに読み進められるものの、あくまで個人的に、展開や人物像がややテンプレかなと感じた。
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異世界ロードムービーのようなBL2021年4月17日ファンタジーはどちらかというと苦手なのですが、レビューがかなり高評価なので、思い切って読んでみました。ファンタジーに抵抗がなくて恋愛もの(BLに限らず)が好きな方には、声を大にしてオススメします。ここまでの完全な異世界を自ら創り上げ、そこで物語を展開する集中力と想像力が素晴らしい。異世界の中を旅するロードムービーのような展開なのですが、メインの二人の関係には切なさと希望が入り混じって、しっかりとした心情重視のBLが軸にあります。片方だけの視点からかと思いきや、両方からの視点が描かれていて、相手の想いがわかる設定なのも嬉しかった。大人の童話かと思えるくらい、哲学的な要素も多分にある物語ですが、価値観の善悪はわりとしっかり線引きがあって、その部分は良くも悪くも分かりやすいと思いました。大筋の話の他に、一話一話、始まりと終わりがあるのも、好きな人は好きだと思います。まだ第一巻。世界観に入り込めないときつい部分もあるけれど、これからファンタジーBLとして超大作になりそうな作品の、始まりを体験した感じがしました。
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穏やかで優しく、芯のある受けが魅力的2021年4月17日穏やかで優しいBLが好きで、子供も好きで、人生辛いことはあるけど人の良い部分に触れて生きていきたい、そんな方やそんな気分な時にぴったりの作品だと思います。ほんわかした受けが、実はとても芯があり、いざという時に相手とまっすぐ対峙し一歩踏み出していく勇気がある、そんな強さも魅力的だと思います。ストーリーは王道で、モノローグや会話にも意表をついたところがないというのが、ほんの少し物足りなくもあるのだけれども、ひたすら優しいお話に癒されたい時にオススメです。本作のようなトーンが好きな方には、先生の別作品『山田と少年』も穏やかで優しい年の差BLとしてオススメです。
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「すれ違い」より「覚悟」が描かれてる2021年4月16日題名と表紙から、ほんわか社会人BLかなと思いきや、いい意味で裏切られました。最初は、BLにしては若干コマ数や台詞の多い作風に慣れないかもしれませんが、丁寧に描き込まれている背景も含め、ゆっくりじっくり堪能することをオススメします。何気ない会話の中に愛情を含ませたり、ミッドライフの諦念や葛藤を抱えた人生がまずあって、その生活に少しずつ愛が染み込んでいくような、深みのある自然さが佳い。吾妻先生、ソライモネ先生に続いて、佐岸先生の背景の絵に対する力の入れようにも惚れ惚れしました。絵のみならず、ナレーションの文字の位置も、キャラの心情の緩急まで読み手に伝わるよう、行き届いたこだわりが感じられます。二人の愛に関しては、すれ違いの切なさや片想いの切なさもあるけれど、何よりも、受けの覚悟にぐっときました。その部分のナレーションもすごく良かった。日常を切り取る社会人BLの中で、イチオシの秀作です。
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ストーリーや心情よりキャラ重視派向け2021年4月16日純真で健気な、きゅるんとした少年の受けが好きな人には、はまるかもしれない、拾い物系の救済話。不幸を負いつつもキラキラ感を失わず健気に尽くし、大人に救われてるようでいて救っていく。絵も丁寧で物語もしっかり構成されている。欲を言えば、もう少し展開に意外性が欲しかった。探偵の秘密にフォーカスするより、日常的に体を重ねる関係に到る中での二人の葛藤や愛情の揺れにまつわる心理描写がもっと読みたかった。台詞や背景に花や光を散りばめたりしてキラキラ感は十分に伝わるけれど、時折、表情の表現が大袈裟に感じてしまった。☆3.5
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気負わずに可愛い話を楽しみたい時に2021年3月14日試し読みするとつい続きを購入したくなるのが先生の作品。飄々としていながら包容力があり、余裕あるようで時にそれが崩れる攻めがいつも魅力的。割と突飛なカップル設定も多く、先は分かっていても、どうやってここから結ばれるんだろう?と過程が気になる。今作は割と王道な設定かもしれないけれど、純朴天然な方言男子の受けが真っ直ぐに頑張るのを見てると、思わず応援したくなる。物凄い感動が待ち構えている訳ではなさそうだけれど、気負わずに二人の行く末を見守りながら癒される可愛い作品。☆3.7。
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ライトなカシオ先生作品を読みたい方に2021年3月11日カシオ先生は、心が痛くなるような辛いお話も書かれていて、絵柄も少し病みを感じさせるようなところがあるのですが、この作品はかなり明るいです。浮き沈みも多少はありますが、カシオ先生比ではラブコメとも言えるくらいライトな作風でした。高スペックイケメンと思いきや実は、という逆のギャップ萌えも面白かったです。綺麗で性格も良い二人を眺めながら、展開を楽しんで読み終わりました。カシオ先生のファンの方はもちろん、カシオ先生の作品には惹かれるけど少し怖い、という方も、ライトなカシオ作品としてオススメです。ポジティブな★3.5。
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繊細な心の機微を紡ぐ物語が好きな方へ2021年3月11日表紙で敬遠しなくて良かった、6巻という数の多さで読むのを躊躇わなくて良かった、やはり漫画はいい、そう思えた久々の傑作でした。同居の家族関係こそ複雑で、ドラマ性もあるものの、基本は日々の暮らしの中、恋心や友情、家族という人間関係のみに焦点を絞って、日常を描いた物語。こうした一見地味なテーマで淡々とした語り口、となれば巻数を重ねる程だれてしまいがちだけれど、くぎ付けになって真夜中に全巻読み切りました。表面上はほとんど騒ぎ立てない各登場人物の、内なる繊細な心の機微が手に取るようにわかる演出は秀逸で、そこはかとなく確実に存在する哀しみと、それを凌駕する強い愛情に随時胸が締め付けられました。主要な登場人物たち以外にも、モブになりがちなキャラの視点からの章も設けてあります。「恋を知って弱くなる人、強くなる人がいる」とは劇中の樋口の気づきですが、想いに真っ直ぐ突き進める人も、耐え忍ぶ人も、諦める人も、愛に気づけない人も、異なる性格の全ての登場人物に読者が心を寄せられるような構成も見事。唯一の願いは、樋口とコウの続編スピンオフを是非!という、それだけです。
因みに、本作のような年の差BLの心の機微を扱う話が好きな方に、ダヨオ先生のYoung Bad Educationシリーズも未読であれば是非オススメしたいです。 -
絵画に漫画が宿ったような作品。2021年3月6日まず、下の方に、ネタバレがクリックせずに読めてしまうレビューがあるので、お気をつけて。この作品はネタバレなしで先に読んだ方がいいです!!
温かい手書きの線で、紙面いっぱいに丁寧に描き込まれる絵。ただリアルを突き詰めた美しい絵とも一線を画し、現実のシーンに運命や感情が溶け合ったような、芸術的なセンスが光る。一ページ一ページ、見つめるように読める漫画。88rhapsodyのグルーヴ感溢れる絵に感銘を受けてこちらの作品も読んでみたら、全然違うテーマで期待を上回る満足度でした。とはいえ、個性的で心の温かいキャラクターで物語が構成される点はいつも一貫してます。毒気のないのが物足りない人には物足りないかもしれないですが、愛の先に恋が見え隠れするような、控えめながら強い絆を描いた点は、本作によく合っていると思いました。芸術的な作品が読みたいときにオススメ! -
繊細で重層的なストーリー。☆4.52021年2月15日さすが賞をとった物語のコミカライズだけありますね。短編集ですが、一話一話、とても丁寧に綴られている印象。LGBT(だけではないですが)の葛藤もありながら、人に惹かれるどうにもならない引力の普遍性も描いていて、落ち着いた語り口の中、心情の繊細さが心に染み入る作品でした。マイノリティの恋愛が主軸だけれど、それを全面に出すというよりは、清濁併せ持つ一人一人の人生のドラマの中に恋愛も織り込まれている描かれ方で、深い。登場人物が話ごとに繋がり、さらに各章、植物のモチーフと重なる。相当練られて全て構成されていることが伝わります。新しい気づきや大きな感動という意味では弱いかもしれないけれど、完成度の高い、重層的なショートストーリーを読みたい時にオススメです。
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礼の相手としては意外!でもそれが面白い2021年2月8日大好きなシリーズ。本当なら、数ページのオマケがつく単行本まで待ちたかったけれども、待てずに購入。どの作品でもそれぞれ脇役がいきいきしている群像劇なので、誰のスピンオフになっても、シリーズトータルでもう一度読み返して楽しめますね。職人肌で謎めいた礼にスポットを当てた今作。意外な性格の相手だけれども、そこをついてくるのがまた予想外で面白いです。今はラブコメっぽい感じですが、繊細な感動を描くのも上手な作者さんなので、これからの良質なドラマに期待できます。個人的には、2年監督と3年部長カップルの物語が一番好きだったので、彼らの絡みも見たいです。
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普遍的な愛。シリーズトータルで☆52021年1月24日個人的には次作の『親愛なるジーンへ』がスピンオフという位置付けを超えた大傑作だと思っていて、寧ろ何も予備知識なしに次作から読むことをオススメしたいくらいです。本作はシリーズ第一作ということで、物語と共にアーミッシュという特殊なキリスト教一派の説明が含まれます。親切でありがたいですが、次作はそいいう部分が全て削ぎ落とされ、いい意味で物語としての完成度が高まっているように感じます。とはいえ、本作も、時代や場所の設定、キャラクター、背景まで書き込んだ絵、エンディング、全て綺麗に折り重なった魅力的な作品です。
時代物や外国物は苦手という方でも、大丈夫と思える普遍的な物語。心の綺麗な人々による、綺麗事だけではない愛の話を読みたい全ての方にオススメです。基本はBLですが、友情、家族愛、郷土愛、大人になるという成長物語も折り重なり、物語に深みがあります。アーミッシュは賛否両論ある一派ですが、作者さんは政治的にはニュートラルに、心情的には温かく、でも啓蒙的に肩入れすることなく、フラットな一個人の視点を貫いて描いており、好感を持ちました。 -
テーマの選択はいいと思ったけれど2020年12月27日深いヒューマンドラマを読みたくて、重たいテーマを扱う本作を購入。正直、各短編のテーマの深刻さに反して、登場人物の行動や感情が軽すぎるように思えました。私も一人の母として、取り違えの子供のニュースに心を痛めてきましたが、知ったときはもっと葛藤するでしょうし、何も知らない子供へのショックには人一倍配慮するはず。それが微塵も感じられないので感情移入もしようがない。他の短編も、主人公の鈍感さや残酷さが目立ち、父親や彼氏など、他の登場人物が気の毒になるほど。個人的には、突っ込みどころが多く、感動ストーリーとして成立していることに違和感を持ちました。
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想像とは違ったけれど二人を見守れて感無量2020年12月20日同級生っていうありふれたテーマでありながら心に残り続けている稀有なシリーズがO.B.で完結した時は、もう二人を見守れないことが悲しくなるほどでした。なので、シリーズを復活させて下さったことに感謝しかありません。ただ、前作の限りなく尊い二人の関係がさらに深まるのかと思いきや、辛く痛みのある展開に。瑞々しいBLとして輝く前作とは異なり、LGBTの問題にも深く切り込んだ作品となっていました。でも、妄想ではなくリアルな関係を突き詰めるなら、こういう展開になるのかもしれない、と納得がいきます。また、二人の揺るがない愛の尊さは依然として変わりません。この作品の痛みは『ふたりぐらし』で癒されるので、いつかシーモアでもまとめて読めるようになるといいなと思います。
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グルーヴ感が爽快。絵も、人も魅力的。2020年12月15日温かいBLが好きだけれど、ありきたりなストーリーや、人物が綺麗なだけで余白の多い絵柄はもう物足りないという方々にオススメ。一周回って、この熱量、バンドっていうテーマ、群像劇、脱リアルな絵柄、凝った背景が新鮮で格好いい。それにプラスして、このストーリーを進めていく人物たちが、皆個性的で、でも芯があって、心が綺麗。トータルパッケージとして、この作品は素晴らしいと思った。今のところ隠れた秀作だけれど、背景まで丹念に画として魅せるBLは少ないだけに、これから作者さんのファンは増え続ける予感。心が綺麗で外見の濃ゆい人物たちが奏でる熱い群像劇、という点では、他の先生の人気作『黄昏アウトフォーカス』シリーズに通じるところもあり、シリーズ読者にもオススメしたい。意外性のある展開や台詞といったものは少ないかもしれないけれど、グルーヴ感のある爽快な読書体験を求める時にピッタリの、素敵な作品。
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ブルースカイコンプレックス番外編 インディゴブルーのグラデーション
本編が好きな人は楽しめる2020年11月20日本編のカップルが好きな人は絶対に楽しめる、二人のイチャイチャがたっぷり入った番外編です。他、短いけれども、本編のあのシーンでこんなことが、こんな想いが、といったような、補足的なこともわかります。意外性のあるお話はないけれど、内輪受け、コアなファン向けかもしれません。最近の本編は、段々と冗長になり、登場人物が増えて蛇足的な展開になってしまっていると、個人的には残念に思っています。ローテンションでも心ではしっかり考えているような人物像が魅力の先生の作品のファンで、沢山読んできましたが、意外性がありつつも核心をつくような行動や、繊細なモダモダがここのところ無くなってきているのは寂しいです。この番外編でも、やはりもうかつてとは違うような、一抹の淋しさを感じました。 -
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表紙の雰囲気に惹かれたら是非読んでみて2020年11月17日過去と現在が交差し、二人が絡み合いながらも不安を煽る冒頭から惹き込まれた。終始、コマに何を描くか、ストーリーとして何を小出しにするか、時にあざといくらい練られているように思えました。幼少の頃の傷をうまく消化できないまま、思わぬ形で苦しむ優等生の累と、その傷に寄り添おうとして深みにはまる、ぶっきらぼうでも優しい幼なじみ。共依存、高校生らしい未熟さもあるけれど、溢れる愛を貫く八尋の愛し方は私は偉いと思った。二人とも老け顔なのと、やや最後の解決が駆け足だったのが残念。でも、養子縁組した家族との関係もきちんと掘り下げ、BLとしては甘さとかキュンとかを越えた愛の重層性を感じさせてくれて、いい作品だった。
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色んな愛のかたち2020年11月4日短い叙情詩を読んでいるような、心に残るストーリー。詩的な雰囲気が好きで、色んな愛のかたちを推せる人にオススメ。この値段で読める物語としてはコスパがとてもいいと思います。この作者さんの愛の引き出しの多さ、根底にある優しさに敬意を表したい。
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