死者の書
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死者の書

近藤ようこ/折口信夫

美しい物語

2022年3月20日
原作は未読だが、これはこれとして近藤ようこでなければ描けない作品だとおもう。郎女が俤人を追い求め、当麻曼荼羅を作り上げる筋立てを経糸に、彼女を取り巻く人々(生者・死者)を緯糸に、織り上げた美しい曼荼羅。そこに描き出された世界は彼女の魂の清らかさ、豊かさに見える。これを読んだら久しぶりに当麻曼荼羅(本当は浄土変相図とかいうらしい)を拝見したくなった。もう何十年も前に當麻寺で拝観し、惚れた。折口信夫の原作は昭和14年というが、執筆中はまだこれが綴れ織りであると判明していなかったのだろうと想像する。絵画なのか、織物なのか、染物なのかすら以前は謎だったらしい。そんな謎めいた存在性が原作の源泉になったのでは、と思う。読後、色々検索して、本作で主人公は単に「郎女」と呼ばれているが、伝説では「中将姫」だったと気づいてしまった。私くらいのおばばだと中将湯の箱に描かれたお姫様の顔がすぐ思い浮かぶ。そのギャップに、ちょっと感動が薄れてしまったが、本作は間違いなく名作。
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