魔道祖師
」のレビュー

魔道祖師

墨香銅臭/鄭穎馨/千二百

大作。紙で読了済でしたがこの度電子も購入

ネタバレ
2022年3月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ この作品は人となりとギャップを知るほど愛しさ募る、情が深すぎる寡黙な美丈夫×討伐され死から13年の時を経て蘇った破滅と隣合せの奇才、かつ善性と掴み処のなさを併せ持つ口から生まれたような男2人のラブロマンスが主軸でありながら、前世と今生の謎が少しずつ交錯し紐解かれていくミステリ(バディ)要素、血統主義の古代中国を舞台とした武侠ものとしての個々の物語がしっかりと存在しており読み応え抜群です。
2人の距離が少しずつ近づいていく様子が心理描写巧みに描かれており、そのふとした言動や変化に悶えること必至。真逆に見える彼らが如何にして全幅の信頼を置く破れ鍋に綴蓋な唯一無二の関係になっていくのか、その一筋縄ではいかない過酷な過程とその先にある幸福をぜひその目で確かめてみてください。公式が最大手とはこのことで4巻は完全にR18です。
報恩と復讐の応酬、思惑が渦巻く社会、不条理な身分差別、血族に受け継がれていく負積と呪縛、それらが複雑に絡み合った結果の必然的悲劇、悲劇を経たからこそようやく辿り着いた血筋によらない愛の物語に情緒の変動激しく夢中になること間違いなし。
翻訳も文体も違和感なく読みやすく、文中に注釈やルビがある安心設計。
伏線回収の巧妙さ、飴と鞭の使い分けや過去現在を行き来する構成をよく活かした筋運びに加え、本文の情景描写が豊かで心理描写も丁寧なので読み出すと止まらない不思議な吸引力があります。
更に複雑で難解な人間模様を入れ子構造にすることで対比や暗喩を至る所に仕込んでいるのも魅力的。作者の小説の技巧に舌を巻くことでしょう。想像の余地が沢山あり何度も繰り返し読んでは新たな発見をする究極のスルメ小説です。
この作品は社会の変革(英雄/反英雄物語)ではなく、善悪における人間の群衆心理や、社会を簡単に変えることはできない諦観、個人の正しさが必ずしも誰かを救い何かを成すことに繋がるわけではないという容赦ない部分もしっかり描かれているので、登場人物全員が幸せを掴む大団円を好む方は消化不良に感じるかも。個人的にこのご都合感を一切排除した締めくくりが堪らなく好きです。
忘羨の物語としても綺麗に着地しており、過去の傷を背負い子供達の未来を見据え、欠けているものを補い合いながら、過去お互いに放った言動を塗り替えるように愛を紡ぐ2人の幸せな様子に笑みがこぼれます。素晴らしい物語でした。
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