因果の魚
」のレビュー

因果の魚

新井煮干し子

運命に縛られた水槽の中の魚

ネタバレ
2022年3月31日
このレビューはネタバレを含みます▼ ニコイチ。
その関係性をできるだけ気持ち悪く表現した感じでしょうか。
表紙絵、不気味です。
涼一が逸成に背後から口塞がれてるし。
1話の扉絵も不穏です。
線もデッサンも構図も、奇妙な揺らぎがあります。
もうこれだけで鬱々としたドキドキ感が盛り上がってきます。
トドメが涼一の初お披露目の立ち姿とアップ顔!
キモっ!って思わせる。
伊藤潤二先生か諸星大二郎先生か?っていうね。(気持ち悪さの最上級の褒め言葉です)
煮干し子先生の絵だけでここまで演出してしまう画力に既に骨抜きにされてしまってました。
………
本編もセリフこそ少ないですが、それを補って余りある画力で2人の関係を描き切っています。
瞳、口端の笑み、涙、手。
立ち姿も蹲る背中も捩れる胴体も何もかも。
どのコマも計算された線で気持ちを強く物語っています。
………
人は役を与えられると本来の姿とは違っていてもそうなってしまう。
社長の跡継ぎとして生まれた逸成は、中身は女性性の方が強かった。
だが歯を矯正するように枠に嵌められて育てられた。
その窮屈の捌け口を涼一に求め、涼一無しではいられなかった。
対して涼一はひたすらに逸成が好きで、しかも逸成よりも賢いので彼の求める姿であり続ける。
愚鈍で一人では何も為さない出来損ないという、本来の涼一とはかけ離れた虚像。
矯正されなかった歯並びの悪さが、気持ち悪く笑う度に見え、不気味さを補充してきます。
涼一は自ら進んで枠に嵌めています。

しかし転機が訪れます。
逸成は、好かれた女と結婚するように涼一を誘導します。(そう読めました)
実は逸成にも本来の涼一を解っていたのですね。
描き下ろしで執着が愛に変わった時を読んで、女々しい逸成の精一杯だったのではないかと思いました。
対して「ひとりじゃおちおちくるえもしない」という独白で、涼一の思いは愛にはなり得なかった執着だったと感じました。
グァムの教会で三好さんに言われた言葉を受けてのエンディング、最後のページが切ないです。
二人の表情の違いに泣けてしまいました。
………
あくまでも私が読み取った解釈なので、他の方が読むと全く違う感想になると思います。
そういう意味では抽象的な部分が程よく施された絵画的な作品です。
………
出会い方がどうであれこうなってしまっただろう2人。
多分各々が結婚しても2人だけの時を作りずっとえっちしていそうです。
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