野性の花嫁
」のレビュー

野性の花嫁

ジュリア・ジャスティス/さちみりほ

ど迫力の啖呵、堂々と主張する女神アテネ

2022年4月22日
ハーレクインでは男性をアポロンにたとえるのをもう何度か見てきたけれど、ヒロインがアテネ神になぞらえられるとは珍しい。
意図は良く判る。戦ってきたのだ。その分傷ついても来たのだ。一方で名前がヘレナとは、暗喩なのだろうか。

父親が死んだことを喜ぶ強いインパクトで幕開け。そこから読み取れるヒロインの壮絶な少女時代、と、そして、強い意思。やさぐれてもおかしくはないのに、冷静さと自分を取り巻く状況の瞬時理解力。彼女の自由を奪い痛め続けた力から彼女は解放された。この意味をストーリーの陰から問うとき、ヒロインは怯むことなく周囲に自分の言葉で語る。この光景で、解き放たれたヒロインの観点は人々の固定観念にも疑問を投げ掛ける。

封じられても、囚われても、遮断されても、力づくで引き戻されても、どれほど暴力的抑圧がなされても、何度でも脱出を図ってきたという。やっと「敵」が居なくなってくれた後に取り返すもの。それはお金でなく、社会生活であり教養であり日常の平穏であり身を飾ること人と交流すること。

「野性」のタイトルを描写するシーンは専ら序盤くらい。乗馬のシーンは既に馬術の心得、つまり上流階級の貴婦人の嗜みに属していて、野性は片鱗を窺わせるのみ。

アダムの心境推移をもっと絵で感じたかった。
貴族の掟破り的な行為のその後の顛末はどうだったのだろう。
義母様のお人柄にはほんと参った。ハーレクインで一、二を争うほどなのではないか。最低の居心地のところから、最高の温かい居心地を見せるダーネル家へ。さちみりほ先生の絵にかかると愛嬌一杯の可愛いありがたいおばさん。小憎らしい恋敵のかたがしっかり憎まれ役の仕事して、これ迄の人生の大半を不遇に耐えたヘレナ、これからは幸せしかない、と、人に恵まれた環境への期待一杯で読み進められる。物語開始までの時間軸に於いてもう充分壮絶な体験はし尽くした。母のもとに行こうとして、自由のために闘ってきた勲章を胸に背筋を伸ばして生きる姿は凛々しい。

ハーレクインは久しぶり。相変わらず、といった安心感、永遠の金太郎飴。ちょっとお高め価格のHQ。1冊に納める難しさはお察しするが、ユーモアも加えてさちみ先生劇場は今日も就寝前の寛ぎのひとときを楽しませてくれた。
クオリティがピンきりのHQコミックの中でこのそつのなさにホッとする。
( HQは評価甘めにつけてます。)
いいねしたユーザ10人
レビューをシェアしよう!