このレビューはネタバレを含みます▼
人を喰らう鬼が出るという山の麓で1人暮らす佐吉はある日、紅い椿の木の下で泣く赤ん坊を拾います。まだ臍の緒の付いたその子は、紅い髪•紅い瞳に2本の角と鋭い爪を持つ鬼の子でした。自らも薄い色の髪と瞳を持つ佐吉は、その子をアカと名付けて育てます。アカは成長しても人語を解さず、長い爪は意図せずに美しい蝶をも傷付けてしまいます。やがてアカの存在が村人の知るところとなった時、佐吉と母親に何があったのかが年寄りによって明かされます。幼い鬼の子の存在と村人の鬼のような心、さらに恨み辛みという自分の内なる鬼を知り泣き崩れる佐吉を前に、慰めたくとも長い爪で傷つけてしまうことを恐れて動けずに泣き叫ぶ幼いアカに胸が締め付けられます。10年経っても言葉を喋らぬアカは明らかに人とは違い、人らしくと願うことはアカの幸せにはならないと佐吉は別れを決意します。山中で腰綱を切られてきょとんとしたアカは、やがて無邪気に蝶を追いかけて姿を消してしまうのでした。緑深い山に咲き、降り積もった雪に落ちる椿の花の紅い色が、モノクロ画面でもはっきりと感じられて素晴らしいです。アカの大好きな蝶が、人と鬼との心を繋ぐかのように、優雅に優しく頼りなくふわりと舞います。指切りひとつを心の支えに、約束を果たす佐吉と、待ち続けるアカの美しい純愛の物語です。