おさななじみに彼氏ができた話
」のレビュー

おさななじみに彼氏ができた話

パース

新鮮でセンスを感じるデビュー作

ネタバレ
2022年5月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ タイトルの意味、表紙やジャンル区分から想像される内容とテーマのずれ。様々な意味で鮮烈な印象を残すデビュー作だ。

試し読みの不穏なお仕置きシーンが気になって手にしたところ、幼馴染のみちこから始まる複数の語り手によって少しずつ明かされるゆうまの姿。ヤバい。一見普通の人に見える人物の実像が複数人により語られる小説をいくつか読んだ経験が頭をよぎり(大概、隠していた内面が暴かれて悲惨な展開になったり、語り手に裏切られたりと、読んでスッキリした試しがない)、この作品もみちこから見たゆうまの印象が闇方面に変わっていくのではないか…と緊張感を持ちながら読み進めていった。

そのためBLを読むというより、文芸作品と漫画による表現方法とを対比しながら読んでいた。これが面白かった。

この作品、読み手のこうくるだろう、という予想からずらして読ませるのが実にうまい。例えばジャンル。ゆうまは下巻で自ら語り手となるが、生まれつき共感性に乏しく、幼少期から異質なものと見られて孤独感を味わう中、みちこはゆうまの特徴を個性として受け止め視点を共有したこと(個性の語は上巻104頁)で、ゆうまは受容されたと感じ社会から疎外されずに生きていく術をみちこから得ていく。時に加虐的態度を取るのも大切なものを守りたい故で酷いけど一応了解可能だ。そのゆうまが、みちこに彼氏(仮)ができてそこから離れ闇を抱えつつ性的嗜好に悩む大谷と生きづらさを抱える者同士で真の愛を得て成長するのがテーマかと。BLらしくするならゆうま大谷だけを描けばいいのにそうしなかった所が独創的だがBLとはちと違うテーマであり意表を突く。また表紙。闇を感じさせない真っ白な背景に2人の男子。一見爽やかそうなのだが、中の絵も語り手や場面によってゆうまの描き方が変わるように、一見明るい普通の学生のような表層=表紙と頁をめくると現れるダークな内面のギャップを表現しているのではと想像した。

そのような文字では表現できない漫画ならではの表現手法、センス、さらには構成の見事さに感心する。
この作品、みちこや大谷のようにゆうまの存在を受け入れられるか否かでラストの余韻が変わるのが興味深い。

BL的な萌えとかトキメキとは違うところに魅力がある。ラストが予想を裏切り温かいのも良かった。新しい才能との出会いにゾワゾワする上下巻。
いいねしたユーザ21人
レビューをシェアしよう!