羽ばたき Ein Marchen
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羽ばたき Ein Marchen

鳩山郁子/堀辰雄

憧れた鳥の羽ばたきに、人は追い付けない

2022年5月19日
堀辰雄の短編小説「羽ばたき」を、鳩山郁子の細部まで行き届いた美麗な筆致でコミカライズした、贅沢な一冊。服装、小物、演出、随所に目を瞠ります。憧れて、追いかけて、でも決して追い付けない……そんな鋭利な切なさと美しさがあります。
小説を見事に視覚化しただけでなく、鎮魂歌のようなラストシーンなど独自に加えられたシーンもあり、堀辰雄の作品であると同時に鳩山郁子の作品になっています。フェアリーランドでのキキとジジのすれ違うシーンも独自に加えられた部分があり、私的にはそこがとても切なく、気付いたことに気付いていたなら、と思わずにはいられません。
また、あくまで堀辰雄の世界が下敷きになっているため物語の道筋があり、鳩山作品中では比較的すんなり読めると思いますので、ガロ系に不慣れな方にもおすすめです。
巻末には原作小説も収録されているのが非常に優良、しかもちゃんと旧字体なのが最高。解説も含め、隅々まで読み込んで「羽ばたき」の世界を楽しめる、素晴らしい一冊です。
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