ファザー・ファッカー【特典付き】
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ファザー・ファッカー【特典付き】

暮田マキネ

免罪符を捨てた2人が行き着く先は

ネタバレ
2022年6月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ 近親もののもたらす背徳感は嫌悪感と紙一重である。では、嫌悪感をもたらさないギリギリのところで読み進められる作品とは。人によって違うと思うが、自分の場合は、否が応でも登場人物が抱える罪悪感、それを彼がどう自分の中で正当化しているのか。そこに人間として理解できるものがあるかを心のひだをなぞりながら読んでいくのが自分なりの禁忌ものの読み方だ。
前日譚の還らずの夏に収録されているAll things I knowから読んだ方が2人の関係の始まりが分かり、こちらを読んでからの方が楽しめると思う。
本作は近親ものといっても、真の父親である明は実は血の繋がらない義父であるが戸籍上は父親。親友で想い人だったマコトが事故死し、遺された恋人、サエと明が結婚して実の親子として生活する中、成長するにつれマコトに似てくる真に父親らしくない視線を送ってしまう…のだろう。さすがに実の親だと思っている真が明に恋情を抱くのは無理がある…それが真に恋心を芽生えさせ、関係に歪みが生じていく。明は、親友の子を守ろうとしてサエと結婚したことによって元々昇華されるあてのなかったマコトへの想いが瓜二つに育つ真がそばにいることで、日々マコトへの想いがぶり返し身体の熱を持て余してしまう。そこへ真が明の秘密を暴き、息子から迫られたという免罪符を与えて、週末の2日間だけマコトとして明のマコトに犯されたいという願望を叶えてあげるのだが。対して仮のマコトに身を委ねるほど自己評価の低い明は真に抱かれながらも、マコトに抱かれていると思うことで親友として接することしか許さなかったマコトへの復讐だとうそぶき、真は穢していないと思い込むことを免罪符にしていた…真を大切な、穢してはならない存在であり、真が口にしたマコトと思っていいという言葉も自分が言わせたのだと思い込むことにして。身勝手な言い分だと思う。でも嫌悪感を持たなかったのは明がこのまま真をマコトから切り離さずに見ることはしてはならないと考えサエから嫌悪されても免罪符を捨てて身を引く矜持があったから。その結果明は真と向き合い、まごうことなき純愛を得るのである。ほう、歪んだ関係だと思った先にこんなに透明感のある感情に出会えるとは驚いた。途中、明の本音が見えたようで隠れてしまう緊張感ある構成含め魅力的。作者様、透明感ある絵柄ながらドロドロした感情を破綻なく描く力量が素晴らしいです。
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