白い朝に
」のレビュー

白い朝に

森世

悪い魔女の呪いを解くには

ネタバレ
2022年6月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 上165、下212ページ。
表面的にはあれやこれやで衝撃的ですが、根底に「王子が姫を救い出す」というおとぎばなし的流れがあるので、読後感はけっこう爽やかです(闇耐性高い個人の感想です)。悪い魔女にかけられた呪いが解ける、いばら姫に近いものを感じて、とても良かったです。
この作者さん、メンタル抉るキャラ立てがすごくよく出来ていて、かつ物語の芯には王道があって読みやすい。

序盤、上巻18ページの正和からぐいっと引っ張り込まれました。洗脳されてるな、っていうのが、セリフにもガラス玉みたいにキラキラと描かれた瞳にもよく出ていて、非常に良かったです。その後も繰り返し描かれる正和の瞳がキラっとする瞬間にゾクっとしました。
評判の血まみれスプリットタンは、物理の痛みで精神の痛みをごまかしている様子に、痛いと言うより胸が苦しいです。
上巻ラストの、まちに兄の肩を持たれた時の正和の絶望感も、ボディーブローを喰らったかのようでした。
ベストシーンは、正和がたった一度だけ、まちに対して嘘をついた場面。過去全部を「嘘だった」という嘘、そこに続く虚実が混ざるように隠しながらの真心の吐露、切ねえええええーーーー!
まちが最初から最後まで正和一筋なのも良いですね。正和のことを理解できてないのも、いかにもなスパダリじゃなくて良かった。ほんと、まち、よく頑張った。えらい。
今作の「悪い魔女」である兄も良かった。BLジャンルでサイコパスを描かせたらこの作者さんの右に出る者は居ないと思ってます。2周目読むと、行動の全てにサイコパスらしい策が巡らされていることがよくわかって面白かったです。はたして、この兄は正和を諦めて別の獲物を探すのか、はたまた取り戻すために罠を張るのか、ハッピーエンドのその先に不穏な陰を落としていてソワソワします。
あと、ちらっと出てきた正和の継母に、この兄のルーツが確かに見えるのも、この作者さんの上手いなと思うところです。継母、おそらくは不倫の末に後釜に収まってる分際で、正和の亡くなった母親に対して「あの女」呼ばわりですよ。怖……。
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