最低な男の腕の中
」のレビュー

最低な男の腕の中

北野仁

心の傷を持つ二人の再生物語

ネタバレ
2022年6月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公の有斗は過去に自分のセクシャリティーが学校中にバレてしまい、「キモい」と否定され心に大きな傷を負ってしまう。
そこから他人と関わらないように生きていたが、隣人という偶然により、同じく大きな傷を持つ空と出会うこととなる。

空は有斗を抱くために「キモくない」「かわいい」と気軽に口にするが、その何気ない一言が長く有斗を苦しめていた呪いを解いてしまう。

思春期に心無い同級生から「キモい」と言われると、なかなかそのトラウマから抜け出せないものである。
空は気軽に言った一言だとしても、有斗はどれだけ救われただろうかと思う。
空にその気はないとわかっていても魅かれていく有斗。

一方空は野球に挫折してから自暴自棄な生活を送っており、有斗に対して初めは特別な感情はなく、大勢のセ〇レの一人くらいのノリで抱いたが、有斗が作った手作りのご飯により笑顔を見せる。

野球が駄目になり、失意のまま大学に入り何年も一人暮らしをしていた空にとって久しぶりの家庭料理は彼に何かしらの変化を与えただろう。
(きっと彼も野球をやっていた時は心のこもった料理を美味しく食べていたに違いない)
人間の幸福とはまず食事により健康を取り戻すことから始まるのだ。

有斗が空に与えたのは美味しくて温かいご飯と、ベッドで誰かと一緒にいることの幸福な香りと、一緒に夕陽を見ながら歩く帰り道だ。
以前は当たり前のようにあって、空が長く忘れていたもの。
それらはゆるやかに空の心の傷を癒していく。

心の傷があるがゆえの二人のじれったくも歯がゆい恋の話。


個人的には北野先生の描かれる尻の丸みが最高だと思っています。
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