にいちゃん
」のレビュー

にいちゃん

はらだ

報われない負の連鎖

ネタバレ
2022年7月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 2024/7/19編集。
表紙のインパクトにまず惹きつけられました。一度見たら忘れられない表紙です。
はらだ先生のファンですがこの作品の評判を気にして直ぐにはなかなか読めなかった作品です。

読後はもっと早く読めば良かったと後悔しました。作品の受け取り方は人それぞれです。
気になったらとにかく読んで自分で確かめるしかないのです。

レビューで躊躇するのは大変勿体ないのでその後は購入前にあまりレビューを見ないようになりました。

タブーである小児性愛に真っ向から挑んだはらだ先生渾身の作品です。

当事者である二人の苦悩がその後の人生が、これでもかと言う程に赤裸々に描かれています。

元を辿れば「にいちゃん」こと景も小児性愛の被害者なのでした。
その大元の加害者の娘も登場する極限まで練り込まれたストーリーと作画で読む者を圧倒するとてつもない程の作品だと思います。

何も分からないまま小児性愛者の加害者の餌食となってしまった幼い景。
加害者が逮捕されても「でもおじさんと僕はちゃんと愛しあっていたよ」幼い景は何がいけないのか本当に分からない切なさ。

それなのに周囲の大人たちは「気持ち悪い」「可哀想」と言うだけで、景に真実を教えようとする大人はいなかったのです。

何がいけないのかも分からないまま、心のケアも施されずに、唯一の味方である筈の親にさえ、躾という名の虐・待を受け、叱責され続けて来た景の地獄。

時を経て大人になった景が幼いゆいと出会います。
ゆいもまた世間体を恐れて通報しなかった親が、景を変態と罵るだけで何故にいちゃんがした事がだめなのか、大人が子供にしてはいけないのかという大事なことを我が子に諭すことはなかったのです。

その結果、ゆいは優しかったにいちゃんを慕い続けるようになって行った。景の幼い頃と同じく、それが愛だと思い込んでしまったのでした。

景とゆいを逃れられない闇に陥れた「おじさん」は何も無かったかのように幸せそうに暮らしていたという圧倒的理不尽を描いているところも唸ります。「おじさん」は小児性愛から完全に離れたと取れる描写でした。

景とゆいの人生は一人の「おじさん」に依って狂わされてしまったのです。
全て大人が悪い。大人の罪の重さ。
どうあがいても二人の幸せな未来が想像出来ないエンドでした。

この作品を描き切ったはらだ先生をリスペクトします。
いいねしたユーザ13人
レビューをシェアしよう!