明日世界が終わるなら
」のレビュー

明日世界が終わるなら

桂小町

閉じた世界の中の三重らせんのような

ネタバレ
2022年7月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ 本作、赤と黒、ROUGEのシリーズ3連作をこの順番で読んで一番余韻が残り印象深かったのが赤と黒の前日譚となる本作だった。赤と黒を読むなら、確かに必読かと。※これからネタバレ有ります。

極道の組長の娘 槇と、その運転手矢萩と、もう1人の組合員三笠の男男女の関係が槇視点で描かれ、BLに同性が絡み槇に感情移入して、この世界に入りこんだ気持ちで読み出した。色気のある男2人の交わす視線と印象的なセリフまわし、槇が幸せを得た絶頂の瞬間まで一気に読ませたかと思うと、いきなり三笠の最期の時を迎えた3人の関係の終焉と、その刹那の槇の切ない表情と独白が印象深く、その中間が一切描かれていない分、何があったのかと想像を掻き立てられる構成が実に見事。

ここまで短編で印象に残る作品は珍しく、もう少し深掘りしたくて、反社の男2人と姐さんと言えば「ジェラシー」の麻巳さん!一度あちらの世界観に浸ってこの作品を眺めてみたいと思い試してみたら、この作品に惹かれる理由が浮かび上がってきた。

描かれるのは閉じた世界の中で、若くしてその世界で生きていくと決めた人の日頃強い人間として振る舞っているのに、その儚げで純粋な内面。それがふとした瞬間に露わになる脆さと危うさ。そこに心が惹きつけられ胸苦しくなる。

本作で槇は三笠の思いはずっと矢萩にあったと思っているけれど、三笠視点で考えると、矢萩は特別な存在だけど明確な恋情かは微妙だったのかなと。2人で組の若手として漂っているのが楽しいけれど、いつまでもそうしていられない。組長の思惑では矢萩が着くかと思った位置に自分が行くことになった。槇のことは可愛いと思えたから結婚も受け入れ、矢萩への想いは内面に秘め、後継者として振る舞ううちに、槇とも矢萩とも距離ができたように感じた気がする。

矢萩は、三笠への想いを燻らせつつ、やはり後継者となった三笠とはそれまでと同じ付き合いはできなくなってしまい、忠誠心を貫く形で三笠への想いを昇華させていたのかなと。

その3人のイメージとして思い浮かぶのは、交わることのない三重らせん。それが閉じた世界の中、ゆっくり沈下していく様が想像され実に切ない…でも素晴らしい作品でした。
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