私たちの幸せな時間
」のレビュー

私たちの幸せな時間

佐原ミズ/孔枝泳/蓮池薫

刑罰 時間 報復感情 サラっと見えて濃い話

ネタバレ
2022年7月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ 重くて辛い話だった。光の射しようがない設定だと思った。(設定が、です。)
自分の境遇を呪い幸せな人を妬み世の不条理に苦しみ、失ったものをもどせぬ事実に慟哭し、ヒト一人の感情が行き場を喪い存在を忘れたかのようになって、なお生きている日々。必要性を実感しない身体と生きることに未練の無い心。どう生まれどう育ってきたのか、誰にも外からは見えない。そこにあるのは、どうでもいい、忘れたい現実、または、明日さえも全く価値無いこと。
キャラ全て、でも向き合っていかねばならぬ時間を過ごしているのだ。無駄なこと、に思える行為、誰のため? 自己満足と断ずるのは容易いが、でも、本当にそうだっただろうか。
本作は、いろんなことを感じさせ考えさせてくれる。
折しも昨日、本書が描いている内容をどこか一部思わせる1件のニュースがあった。
私はここでその刑罰是非論を問うつもりはない。
された方の人生だって尊いものだから、処罰感情も持ち合わせてる。いわれのない仕打ちを受けていいはずがない。その行動した方のほうが絶対悪いと。それでも加害者は被害者であった、という視点は深まる。。

よく言われることだが、こうした事案に関わる人達は一様に考えてしまうらしい。
果たして自分がその立場だったら、果たして自分ならどうしただろう、本当にその方法以外を冷静に選ぶことは出来ただろうか、道を真っ直ぐいけたのか、と。そうやって生育したら、そう考えてしまったかもしれないと。

絵が、さすが、淡々と描写というよりも、そのエピソードに一見どこまでも客観的で煽りの盛り上げを巧まずにいながら、その実、明と暗とが自然と挟まれるところにこそ、この世界の加害者は誰で被害者は誰なのかを惑わせる交錯感を覚えさせられてしまうのだ。語らせ過ぎず、黒幕(?)や母親に報い及ばぬことにナチュラルに怒りは覚えさせられるが、そこに主題を置いてない話。

しかし浄化?救い?射してきた光?、幸せな時間の珠玉が余韻となって主人公のピアノの音に重なって見える。
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