このレビューはネタバレを含みます▼
豊富な語彙と独特な文体にいつも夢中になる先生ですが、今回はさらにその構成と展開にも白旗です。 『ゆきずり』では2人の名前は出てきません、「男」と「彼」がただゆきずりの濃厚な一夜を過ごします。 『アッシュ』ではまた別人物が「僕」目線で「アッシュ」の成り立ちと周囲の紹介をし、『ふたたび』でようやく「男」と「彼」が「常葉」と「扇谷」として再会します。 過去の男を愛しながら扇谷に惹かれていく内科医の常葉と、複雑な育ちで舞踊の師弟とも関係のある歯科医の扇谷。 ゆきずりで始まった2人はどんな関係に...?というところで『ここから』。 ここで扇谷と兄弟師弟の色っぽい関係が出てきて...とかなりの数の人物が複雑に入り組んできます。 4つの短編がどんどん絡み合って、上流階級の恋の嗜み方とは...となぜかドキドキしながら指が止まりません。 常葉はどう決断するのだろう...もし戻ってこなくても、扇谷は志津夫か、それとも新しい相手か...いずれにせよ幸せになれる気がします。 そういう別れだったように思います。 すべてが余韻を断ち切るように淡々と書かれ、それがまた余韻を残すという、なんとも複雑怪奇な感情になる先生の作品はたまに読み返したくなります。 登場人物が他作品とリンクしていますが、ストーリーはそれぞれ独立しているため、どこからでも入っていきやすいし。 またいつもながら芸術にも明るく、細かい描写にうっとり...「アッシュ」の2階の角部屋にひと晩でいいから泊まってみたい...。 (2016年8月/139p)