アオイトリ【イラスト入り】
」のレビュー

アオイトリ【イラスト入り】

木原音瀬/峰島なわこ

アルファの犠牲になったオメガの物語

ネタバレ
2022年8月19日
このレビューはネタバレを含みます▼ 最近ハマっている木原先生のオメガバース作品ということで期待して読みましたが、最後は「うーん…」という感じでした。最初は受け視点だったのが途中から攻め視点に変わってしまったために、受けの心情の変化がわかりづらく腑に落ちなかったです。今の世の中はLGBTや人種等の差別が緩和されていっている傾向にあるのに、オメガバースは差別的で時代に逆行している気がします。Ωを露骨に蔑む人が多いし、努力しても幸せになりづらいし、なったとしても「Ωなりの幸せ」でしかないというのが、読んでいて一番不快な気持ちになるところでした。「長い間努力して描いてきた夢を実現する直前で壊され、同性愛者でもないのに、発情期に襲われて強制的に番にさせられた男性αのパートナーをたった数年で許して愛せるようになるのか?」この答えとなる描写の説得力が足りないと思います。「好きな女性と結婚しようとしていたのに同性に無理やり孕まされた」と考えただけでもおぞましいのに、「浮気した」という濡れ衣まで着せられているのです。しかも過去の経験から「αの男と性行為をするなんて絶対に嫌だ」というトラウマがあったのだから、河内が死にたくなるほど悩むのは当然です。ラストまでの流れを見ると、犬飼がひたすら歩み寄った結果、最終的に河内が折れて受け入れたような印象ですが、本当に納得できたのか疑問に思います。そもそも運命の番を求めていたのは犬飼だけであって、いくら正論や綺麗ごとを並べようと相手の幸せを壊して自分のものにした事実には変わりないのです。絶対的強者側の一方的な価値観と愛情の押しつけで「Ωと番って幸せになりました。めでたしめでたし」と言われても何もめでたくありません。夫と子供の愛情は得られたかもしれないけれど、あまりにも河内が被った損失が大きいと思います。河内がβになって彼女と結婚していたら、差別も無くなり、理解ある義理の家族にも恵まれ、何も失うことなく幸せになっていたかもしれないのに。そう思うと、二人が結ばれたことを手放しでは喜べませんでした。犬飼の視点だから「努力が報われて良かった」というふうに感じてしまうだけのような気がします。「幸せ」とは、自分の意思で自由に決められる状態で感じられるもの。普通のΩよりも発情期が酷く、永遠に子供を産み続けるマシーンに強制的にさせられたのに、河内が「幸せ」だと言いきれる理由が、私にはわかりません。
いいねしたユーザ5人
レビューをシェアしよう!