夜の落下【特典ペーパー付】
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夜の落下【特典ペーパー付】

麻生ミツ晃

快楽に堕ち執着に堕ち…堕ちゆく先は同じ穴

2022年8月29日
初めての麻生ミツ晃作品。人間の心理をエグる生々しいモノを描く作家さんですね。大学生の氷室は就職第一志望の外資にインターンとして入るが、夜はデリ○ルのSキャストのバイトを続けていた。ある日オーダーが入り客の待つ部屋に行くと、そこには上司の九鬼が。目隠しをして「私をSEXの出来る身体にして下さい」と懇願する。敬虔なクリスチャンの母は厳格で 厳しく躾られ、性嫌悪症になり自 慰もした事がないと言う。父母ともに血の繋がりがない複雑な家庭で育った九鬼。集合体の様な家族の均衡を教義で保っていたのだろうか。従順にしていたのは母に好かれたいという純粋な気持ちだけではなく、不安定な自分の立場がそうさせたのかも知れない。或いは神の言い付けを破り禁断の果実に手を出して楽園を追放されたアダムとイヴに自分を重ねたのかも知れない。性的行為をされ、させられて何度も「ごめんなさい」と謝り怯え乱れる九鬼。十字架を首に下げて泣く姿は罪を犯して罰を受けている様で、哀れで痛々しい。氷室は嗜虐心を刺激される一方で、時折見せる素の表情に九鬼への気持ちが現れる。目隠しをする九鬼には見られない表情が… 九鬼を狡いとなじり「一度死んで生き返って本物になって生きろ」と言って姿を消す氷室。再会後はプライベートで会い一線を超える2人。この時はまだ体の関係だけだったとしても、キリスト教徒にとってタブーである同性愛に踏み出した九鬼の首から十字架が外されていたのは大きな意味を持つでしょう。「狡さ」では氷室も同格で、初めから正体を知り、受けの身体に仕込み、逢う口実を与えて快楽で堕としていき、両方手に入れたらいいと言う。それしか九鬼を繋ぎ止める術がなかったのだろう。レストランで母と女性と3人でいる九鬼の傍らで手首のゴムを弾く癖が出る氷室を目にし、ハッと目が覚める。(このパチンが本当に効果的!) 初めて殻を破って自分の気持ちに素直になり欲しいものを手に入れていく。能動的だった九鬼が自分からキスをし、いつもの困り顔の笑顔ではなく少し自信に満ちた笑みを浮かべ真っ直ぐに氷室を見る目には強さが宿っていた… ボーナストラックが2話付いているが、とても重要な話だと思うので、間に明るい別の作品を入れずに繋げて構成して欲しかった。短調長調を繰り返されて余韻が台無しかと。それを引いても噛み跡でリングをつくるシーンにグッときました。特典での氷室が見せる弱さも良いです😊
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